鉄欠乏

鉄欠乏とは、体内の貯蔵鉄(フェリチン)や利用可能な鉄が不足し、酸素運搬や細胞代謝などの生理機能に影響が及ぶ状態を指す概念である。鉄欠乏は鉄欠乏性貧血に先行する段階を含むことがあり、必ずしも貧血と同義ではない。

鉄欠乏の生理的背景と全身への影響

鉄は必須微量元素であり、ヘモグロビンやミオグロビンの構成成分として酸素運搬に関与するほか、エネルギー産生酵素やDNA合成関連酵素の機能維持にも必要とされる。
体内の鉄は主に赤血球、肝臓、脾臓、骨髄に分布し、フェリチンとして貯蔵される。貯蔵鉄が減少すると、血中ヘモグロビン値が正常範囲であっても、組織レベルでは酸素供給効率が相対的に低下することがある。
とくに月経のある女性では鉄欠乏がみられることが多く、全身倦怠感や集中力低下とともに、抜け毛の増加を自覚することがある。
鉄欠乏は特定の脱毛症名ではなく、全身状態に関わる栄養学的・代謝的背景要因として整理される。

鉄欠乏と毛周期・休止期脱毛症の関係

毛包は成長期において活発な細胞分裂を行うため、十分な酸素供給とエネルギー代謝が必要となる。鉄欠乏が持続した場合、毛母細胞の増殖環境に影響が及び、成長期から休止期への移行が相対的に増加することがある。
その結果、毛周期の再配分が生じ、一定期間後に休止期脱毛症としてびまん性の脱毛が認識される場合がある。これは毛幹の損傷による脱毛ではなく、毛周期変化に伴う脱落である。
ただし、鉄欠乏のみで薄毛や脱毛が必ず生じるわけではない。栄養状態全体、ホルモン環境、基礎疾患など複数要因が関与する。AGAのように毛包の小型化が進行する脱毛症とは発症機序が異なる。
したがって、鉄欠乏は女性のびまん性脱毛や休止期脱毛症と関連づけられることがある全身性背景要因の一つとして位置づけられる。

監修医師プロフィール

東邦大学医学部医学科卒業後、同大学附属病院泌尿器科に入局し、以降10年以上に渡り手術加療を中心に臨床に従事。男性型脱毛症(AGA)にも関連するアンドロロジー(男性学)の臨床に関わる。2021年より紀尾井町クリニックにて、自毛植毛を中心に薬物治療を組み合わせてAGA治療を行っている。著書として『薄毛の治し方』(現代書林社)を上梓。(詳細プロフィールはこちら

AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック東京本院 院長
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 会員
医師 中島 陽太

記事監修 中島医師

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