薄毛部位に移植するドナー株は、後頭部の生涯にわたって髪が生え続ける範囲から採取します。その範囲は意外と狭く、耳の付け根(耳たぶではない)の上側からさらに2cm上の位置より水平に伸ばした線と頭の真後ろで交わる点が基準ポイントです。そこを基点に後頭部を帯状に包み込むように約5x20cmの約100cm2(図:緑色の部分)が安全なドナー範囲になります。この範囲から逸脱すればするほど、薄毛の原因となる男性ホルモンのジヒドロテストステロン(DHT)の影響を受けやすい頭髪になってしまいます。

安全なドナー範囲からFUTではドナー株を総取りできますが、FUEでは薄毛が目立たない約半分の密度まで1株づつ間引きします。生涯に採取できるドナー株の総数は、頭の大きさや頭髪密度によって異なりますが、目安としてはFUTで5,000~6,000株ぐらい、FUEでは2,000~3,000株ぐらいになります。FUEで安全なドナー範囲から3,000株以上のドナー株を採取すると、安全なドナー範囲が薄毛でスカスカになってしまうので、FUEでは採取するドナー株数には注意が必要です。

AGAの影響を受けない安全なドナー範囲(緑色の部分)

FUTでは安全なドナー範囲から必要なドナー株は充分確保できるので、逸脱してドナーを採取することはありません。しかしFUEではドナー採取部の密度を下げ過ぎないように散らして採取した結果、安全なドナー範囲を越えた部分(写真:赤線で囲った部分)からもドナー株を採取してしまったという場合には問題です。若い頃は頭頂部に髪があるので隠れているドナー採取の傷痕も、男性型脱毛症(AGA)が進行して高度な脱毛になり、頭頂部の髪が薄くなった段階で、安全なドナー範囲を越えて採取した部分の傷痕が見えてくる可能性があります。日本人の肌の色の頭皮にFUEパンチでドナー株を採取した白い点状の傷痕が多数残ると目立ちます。

AGAの影響を受ける問題の採取範囲(赤線で囲った部分)

さらにドナー採取の傷痕が目立つ可能性があるだけではなく、安全なドナー範囲を越えた部分から採取したドナー株は、薄毛の原因となるジヒドロテストステロン(DHT)の影響を受けやすい頭髪なので、移植した時点で問題はありませんが、年齢を重ねたときに産毛になる可能性があります。せっかく移植したのに将来残念な結果になってしまいます。

他のクリニックで自毛植毛を受けられた方の中には、FUEで多数のドナー株を採取した場合に、パンチによるドナー採取の傷痕が安全なドナー範囲を越えて頭頂部に及んでいる例を、ときに見かけることがあります。経験豊富な植毛専門医は、必ず安全なドナー範囲内でドナー株を採取しますので、年月が経過してもドナー採取の傷痕が見えることや、移植毛が産毛化して薄毛になることはありません。自毛植毛治療を受けられる場合は、経験の豊富な植毛専門医のもとで治療を受けられることが重要です。

FUTのドナー採取

後頭部の安全なドナー範囲から頭皮を上下1~2cm、長さ10~20cmの細長い帯状に切り取り、1,000~3,000株のドナーを一度に採取できます。採取する頭皮の大きさはご希望される移植株数や頭皮の硬さによります。

ドナー採取部をバリカンで前処理

株分け

採取した帯状のドナー頭皮を、最初は細長いドナー株の列に切り分けます(写真:株分け1)。そして次に列になったドナー株を毛根単位の小さな株に切り分けます(写真:株分け2)。生えている向きが一本一本異なる毛根を傷めないように、経験を積んだ看護師が立体的に見える双眼実体顕微鏡を使い、細心の注意を払って慎重に切り分けていきます。手作業ゆえに毛根の切断(ドナーロス)はほぼありません。ご希望された植毛デザインを自然に仕上げるため、1本毛と2本毛の2種類のサイズの異なるドナー株をご用意します。

株分け1: 帯状の頭皮を細長い株の列に切り分ける
株分け2: 株の列から毛根単位の小さな株に切り分ける

FUEのドナー採取

後頭部の安全なドナー範囲から直径1mm前後のFUE専用のパンチ(鋭利な筒状の刃物)を使用して毛根ごとくり抜きドナー株を1株づつ採取します。皮下の毛根を傷つけないように熟練の医師が毛根の切断率を低く押さえるよう丁寧にドナー株を採取していきます。ドナーを1,000株以上採取するには、採取部すべてを刈り上げる必要があります。

FUE専用のパンチでドナー株をくり抜く
ドナー株のくり抜きと採取

株分け

採取したドナー株は、採取した時点で既に毛根単位の小さな株ですが、植毛デザインに応じて1本毛と2本毛の2種類のサイズにドナー株を切り分けて、より自然な仕上りを達成します。

移植の準備が整ったドナー株(1本毛と2本毛)