第16回国際毛髪外科学会(ISHRS)のご報告


第16回国際毛髪外科学会(ISHRS)の学術総会が、2008年9月3日から7日までカナダのMontreal市で開催されました。
今年もアメリカを中心に世界各国から多数の参加者が集まりました。

今回柳生元院長は、ポスター発表1題の研究発表をおこないました。
演題は「Treatment of Alopecia after Artificial Hair Implantation」でした。ポスターは大変好評で、多くの反響がありました。特に植毛の世界的権威であるWalter Unger博士から、素晴らしい内容であり是非多くの植毛医に広めてほしいと絶賛されました。

全体的な学会の発表内容では、ドナー部の縫合法の比較、傷の目立たないtrichophytic closure法、女性型脱毛症、治療困難な症例、single FU法とmulti-FU法の比較、メガセッション、培養細胞移植、高密度植毛、薄毛の遺伝子診断、毛髪幹細胞移植(HST)などが話題になりました。


ヘアラインのデザインの実演


生え際のデザイン実演のパネルディスカッションでは、Ronald Shapiro博士、Arthur Tykocinski博士、William Parsley博士、Walter Unger博士の4人が壇上に並び、いろんな症例にそれぞれ生え際をデザインして、その優劣をお互いに議論するという内容でした。そのモデルに登場した症例は、この学会の元会長であるSheldon Kabaker博士、Robert Haber博士などご自身たちでした。各種のタイプの男性型脱毛症のモデルとして壇上の大きなスクリーンに映し出された映像は、おでこにマジックペンで太いラインを書かれた世界的に著名な先生方ご自身でした。日本では考えられないようなフランクな雰囲気でした。

ライブ症例の供覧

実際の手術後の患者さんたちにご登場いただいて、各医師がデザインや密度・ドナー部の傷跡などの仕上がりと技術を披露して比較し合う企画では、Cooley博士、Farjo博士、Shapiro博士、Unger博士など、多くの有名な医師がご自分の症例を2~3人ずつ連れて来られて、いろいろ説明していました。その中に一つ空席の椅子が置いてありました。患者さんが都合でどこかに行って不在なのかなと思っていたら、そばで説明していたWalter Unger先生自身がその椅子に座って、自分がその患者だから生え際や後ろの傷をさあ見ていいよと櫛を渡されました。どんな名人の外科医でも自分自身を手術することだけはできないので、いったい誰がUnger先生の植毛手術を担当したのだろうという質問がいくつか集まりましたが、ご自分のオフィスで、女医として一緒に仕事しておられるお嬢様に手術してもらったとのことでした。

single FU法とmulti-FU法の比較

すべての移植株を一つずつのFU株に分けて移植するsingle FU法(FUT法)と、double FU株やtriple FU株を多用するmulti-FU法との比較のセッションでは、それぞれの方法の長所と短所が議論されました。Multi-FU法の長所としては、仕上がりの見かけ上の密度が濃くなる、細い髪質の症例に向いている、などの意見がありました。Single FU法については、仕上がりの自然さや高密度植毛などが長所としてあげられました。
昨年までmulti-FU法の支持者であったWalter Unger博士の意見では、近年の技術的進歩の結果、従来のmulti-FU法と同じような良い定着率がsingle FU法でも得られるようになったので、最近はsingle FU法を主としておこなっているという発言がありました。

毛根培養細胞移植、毛髪幹細胞移植

毛根の毛乳頭細胞を培養増殖して移植することにより細くなった毛を太い毛髪に変える研究は、従来の研究概容が解説されましたが、実用化の目途はまだ述べられませんでした。
毛髪の幹細胞を採取して毛根付近に植え込むことで、うぶ毛を太い毛に復活させる研究も発表され、今後の研究の進展が期待されました。