第12回国際毛髪学会の(ISHRS)のご報告

1992年以来毎年開催されてきた世界的な自毛植毛学会が国際毛髪外科学会(International Society of Hair Restoration Surgery) (ISHRS)です。これは年1回の世界で最も大きな自毛植毛専門の国際学会で、世界中の主な植毛専門医がほとんど参加します。今年は第12回目にあたり、カナダのバンクーバーで開催されました。例年学会は5日間にわたっておこなわれ、自毛植毛に関する最新の情報や技術が報告されます。本年は600人余の参加者でした。日本からは今川先生、ニドーから2人、NHTグループから8人(日本から5人、アメリカから2人、台湾から1人)が参加しました。NHTグループの参加は今年で10回目です。

今年はNHTグループから、Chang博士が1題の教育講演をおこない、Chang博士、柳生博士、富永博士が3題の研究発表をおこないました。その内容は、以下のようなものでした。

学会の教育セミナーでChang博士がおこなった教育講演はHow to Estimate the Donor Strip to Excise and the Number of Grafts Needed in the Recipient Siteという演題でした。テーマは、移植面積の測定法と移植本数の算出です。発表の内容は次のようなものでした。自毛植毛で一番重要な問題は、移植面積の測り方と、それぞれの患者に何本の髪の毛を移植したらいいかということです。今まではそれぞれの医師の経験によって算出されてきており、同じ患者で2人の医師が植毛に必要な本数を計算しても2人の結果が一致することはありませんでした。Chang博士は自身が独自に考案した科学的な方法を教育セミナーで他の医師たちに教授しました。

また、Steven C. Chang博士は研究発表もおこないました。演題はDirect View Donor Harvestingです。内容は、今までのドナー採取方法を改善して毛の方向性を確かめながらおこない、毛根の切断を最少限度にする方法です。参加した世界中の医師たちに今後参考になる方法でした。

日本からの柳生邦良博士の研究発表の演題はAnalysis of Orientation of Multi-hair Follicles in Non-bald Menです。内容は、自然の頭髪の生え方を詳細に分析したものです。正常の日本人50人で、頭部の22箇所で各々50毛包単位ずつの毛髪が生えている方向を100倍の顕微鏡で観察し、結果を統計学的に分析計算して報告しました。全部で5万5千個の毛包単位の方向を分析することにより、自毛植毛で最も自然な仕上がりを得ることができる方向と、同じ移植毛の数でもより濃く見える植毛の方向を発見したのです。この研究発表は、聴衆の専門家の多くから高く称賛され、大きな影響を与えました。発表直後のパネルディスカッションの議論で、従来習慣的にcoronalと呼ばれていた移植方向の不正確な表現を、この発表に従って今後perpendicularと言うように改めることがその場で決定したほどでした。

富永祐司博士は移植密度の発表をおこないました。演題はIs One Pass Transplant Possible for Japanese Patient?です。1回の手術だけで患者さんが満足できることは自毛植毛治療の夢です。2年前にカナダのトロントのDr. Seager がOne Pass Hair Transplantationを発表し、白人では1回の手術での満足度が高いと報告しました。富永博士は、東洋人でも同じ結果が得られるかどうか追試しました。4人の患者さんで1c㎡の範囲に密度を25%と60%に分けて植毛しました。1年後に観察した結果は、1人を除く3人で25%と65%の発毛密度が同じように得られ、さらに、Dr. Seager の報告と同じように発毛率は100%を超えて平均110%になりました。今回は1c㎡の小さな範囲で試したもので、広い面積になると、血流の分配、手術時間の延長などの問題があるので、従来通り35%から40%の密度で移植したほうが無難という結論でした。

今回は、NHTグループから多くの研究発表がおこなわれ、世界に対してNHTグループの学問的内容の高さと、臨床成績の優れた点が、強く印象付けられた学会でした。

(下の写真は、自毛植毛に関する長年の研究に対して今回の学会で金賞を受賞したRassman博士を祝福する、Chang博士と柳生元院長。)