FUT法とFUE法の違い【医師監修】

植毛方法のFUT法とFUE法の違いは何なのでしょうか?植毛に興味のある方が気になる点だと思われます。薄毛治療の選択肢のひとつとして行われる植毛には大きく2つの方法があります。FUT法(Follicular Unit Transplantation)とFUE法(Follicular Unit Extraction/Excision)は、どちらの方法も毛髪を移植することに変わりはありませんが、それぞれに異なる手法やメリット・デメリットが存在します。本コラムでは、FUT法とFUE法の違いについて詳しく解説し、長年FUT法・FUE法を実施してきた経験から、何が違うのか、どちらの方法がどのようなケースに適しているのかを当院の経験を基に紹介していきます。
FUT法とFUE法の特徴
まずは、FUT法とFUE法について、其々の簡単な紹介と特徴をみてみましょう。どちらもメリットとデメリット、注意点などがありますので、代表的なものをまとめさせて頂きました。詳細はボリューム植毛FUT、くり抜く植毛FUE、クリニックへの相談の際などにご確認ください。
FUT法
FUT法(Follicular Unit Transplantation)は、主に多くの移植毛(ドナー株)を必要とするケースに適した植毛手術の方法です。この方法は、後頭部や側頭部といったAGAの影響を受けにくい「ドナーエリア」から、頭皮の一部を帯状(ストリップ状)に切り取り、顕微鏡の下で丁寧に毛包単位(ドナー株|フォリキュラーユニット)に分割(株分け)されます。これらのユニットは、薄毛の進行した部位や希望するエリアにひとつひとつ移植されていきます。この手法はFUSS(Follicular Unit Strip Surgery)とも呼ばれ、従来から広く行われている確立された技術の一つです。FUT法は、FUE法に比べて多くの移植が可能で、広範囲の薄毛治療に適しているとされています。
メリット
- 生涯に採取出来るドナー株数が多い(約5,000~7,000株程度)
- 高い有効採取率(双眼実体顕微鏡を使って手作業で切り分け)
- 比較的低コスト(FUEよりも安い場合が多いです)
- 狭いバリカン幅(手術後に残るバリカン幅は、縫合部の上下5mmくらい、合計1cm程度のバリカン幅)
デメリット
- メスで頭皮を切る手術である(人によっては心理的なハードルが高いと感じる方がいらっしゃいます)
- 帯状に切り取った後に縫合するため、後頭部に横に走る細い線状の縫合痕が1本残る(髪を伸ばす事で隠せます)
- 頭皮の硬い方は採取できるドナー株数が限られる
- 採取予定の株数から実際の株数が上下する(帯状にドナーを塊として採取して、取ってから株分けして数を数えるので、例えば1500株採取を予定した場合でも、「ちょうど1500株採れる」ということはまずありません。若干の誤差があります)
その他の留意点
- ドナー採取をして縫合した痕は、基本的には1本の線状痕だが、植毛回数によっては2本になったり傷痕が広がる可能性がある
- ドナー採取後の縫合の際にトリコフィティック縫合法を用いる事によって、縫合痕を目立ち難くする事ができる ・体質によっては傷痕が太く治ることがある
- 線状痕はSMP(Scalp Micro Pigmentation)やFUE法で目立ちにくくすることができる
FUE法
FUE法(Follicular Unit Excision)は、眉毛やヒゲ、そして手術痕などの部分的な比較的少量の植毛に適した方法です。この手法では、ドナーエリアとなる後頭部や側頭部から専用の筒状の刃が付いた器具で、毛包をひとつずつ直接くり抜くようにして採取するため、ストリップ状に頭皮を切除して縫合する必要がありません。そのため、頭皮が硬くて可動性に乏しい方でもFUE法は非常に有効とされています。また、FUE法はひとつひとつの傷跡が目立ちにくく、回復も比較的早いという利点がありますが、傷は縫合しないためドナーを採取した数分だけ採取痕は増えていきます(1000株移植なら1000個の傷痕が残ります)。つまり採取するほどドナー部の密度は下がっていきますので注意が必要です。
メリット
- 傷跡が目立ちにくい(ひとつの傷痕は直径約1mm前後のサイズの白い斑点状の傷。ただし採取し過ぎると髪の密度低下に繋がり大きなデメリットとなります)
- 頭皮が硬く可動性が少ない方でも採取可能
- 手術後の回復期間が比較的短い
デメリット
- 生涯に採取できるドナー株数はFUT法の約半分(約2,000~3,000株程度)
- 有効採取率は医師の経験や技量に左右される
- コスト、手術時間(FUT法よりも高いことが多く、また株数の多い手術の場合は手術時間が長い傾向があります)
- 広いバリカン幅(採取する部分を広くバリカンで刈る必要がある。刈らない方法を採用する所もありますが、費用が高額になる傾向があります)
その他の留意点
- ドナー採取しすぎると、採取部の密度が低くなり、スカスカになってしまう(傷痕も目立つ)
- 採取数が過多だと、通常のドナー採取範囲を超えて採取されてしまう(通常はAGAの影響を受けにくい部分からのみドナー採取するが、それで必要な株数がまかなえない場合は他の部分からドナー採取されることがある)
- 技術不足だと毛根切断率が上がり有効採取率が下がってしまったり、傷同士が繋がってしまう場合がある
- 点状痕はSMPで目立ちにくくすることができる
FUT法とFUE法の比較
FUT法とFUE法の最大の違いは、移植する毛包の採取方法にあります。FUT法は帯状の皮膚を切り取ってからドナー株を分離するのに対し、FUE法は個々のドナー株を専用の器具を使って直接抽出します。この違いが、移植株数や手術後の回復期間、傷跡の目立ち方などに影響を与えます。
FUT法は、メスを使ってドナーエリアから帯状に切り出し、それを手分けして顕微鏡を使って細かく切り分けてドナー株を作っていきます。そして切り出されたドナーエリアは、縫合処理されるため、1本の細い線状痕が残ります。切開を伴うため術後には線状の傷跡が残り、FUEに比べて回復には時間がかかりますが、大量の毛包を効率的に採取でき、採取部分の密度の低下もFUE法に比べると軽微なため、広範囲の薄毛に対してFUE法よりも有効です。また、双眼顕微鏡を使って手作業で切り分ける為、毛根の切断率がFUE法に比べて低く、生着率も高まることが期待できます。 一方、FUE法は専用の筒状の刃が付いた器具を使ってドナー株を個別にくり抜いていきます。毛包を皮膚の表面から直接抽出するため、毛根の切断率がFUT法に比べて高くなる場合があり、生着率が低くなる場合もありますが、切開をして縫合するわけではないため、術後の回復がFUT法に比べると早いというメリットがあります。ひとつひとつの点状の傷跡は直径1mm程度と目立ちにくいのですが、採取数に比例して点状の傷跡が増えていくため、大量の採取を行うとドナー部位の密度が低下していきます。傷痕が目立ち難いというFUE法の最大の長所を享受する為には、移植数を抑える必要があります。もしFUE法で大量の移植を行うと、採取部が薄毛になっていって不自然な見た目になることがある点は注意が必要です。
FUT法(ボリューム植毛) | FUE法(くり抜く植毛) | |
手術方法 | すべて手作業 | ドナー採取のみ機器、他手作業 |
採取範囲 | 狭い刈上げ幅 | 広い刈上げ幅 |
採取後の傷痕 | 線状 1本 | 米粒状 多数 (1000株採取なら1000個) |
生涯採取可能な株数 | 約5,000 ~ 7,000株 | 約2,000 ~ 3,000株 |
治療費 | FUE法のおよそ2/3 | FUT法より高額 |
こんな方におすすめ | 一度に広範囲・高密度な植毛をご希望の方 | 眉毛・ひげ・傷痕など、狭い範囲の植毛 |
FUT法とFUE法の選択基準
植毛手術の選択は、個々の希望や状況によって異なります。以下のポイントを考慮して、自分に合った方法を選ぶことが重要です。
移植範囲
広範囲の移植や多くの株数が必要な場合は、FUT法が向いています。一度に大量の毛包を採取できるため、効率的に広いエリアをカバーできます。逆に狭い範囲や移植株数が少ない場合は、ひとつひとつの傷跡が目立ちにくいFUE法が向いているといえます。なお、個人によってドナー部の密度や毛髪の状態などが違うため、治療に進む前に医師と自身の場合はどちらが向いているのかを相談し、実施する株数に近い症例(傷痕の状態も含む)を必ず確認しておくようにしましょう。なお、当院では原則1000株以上の移植はFUT法での植毛をおすすめしています。
回復時間
できるだけ早く回復したい場合や、メスで切ることに抵抗がある場合はくり抜くFUE法が適しています。切開が不要なため、FUT法よりも回復が早い傾向があります。ただし、通常FUE法はFUT法よりも広い範囲でのバリカン跡が残るので、その状態に抵抗がある場合は、ヘアシートで隠したり、刈り上げない方法を選択するなどを検討しておく必要があります。
傷跡の目立ち方
大前提として、FUT法もFUE法も必ず傷跡が残ります。それぞれの傷跡についての詳細は「自毛植毛の傷痕について【医師監修】」を参照頂けたらと思いますが、それを踏まえたうえで申し上げますと、移植範囲と同様、多くの株数が必要な場合はFUT法が、移植株数が少ない場合はFUE法が傷痕が目立ちにくい傾向があると思います。
なお、傷跡を最小限に抑えたい場合、ひとつひとつの傷痕が小さいFUE法が好まれることがありますが、FUE法で大量の毛包を採取するとドナー部の密度の低下や傷同士の合併が見られる場合があるため、かえってFUT法よりも傷痕が目立ってしまう可能性がある点は注意が必要です。必ず事前に移植希望数と同程度の傷跡の症例を確認しておくようにしましょう。
自然な仕上がり
移植先の仕上がりは、FUT法・FUE法問わず移植先で空けるスリット(植込むための切開)により違いが出ることがあります。スリットの種類は大きくラインスリットとホールスリットという2つの方法があります。ラインスリットは細長いメスや針を使用して、細い線状のスリットを作成し、そこに毛包単位を植え込んでいきます。ラインスリットによる細長い傷は、綺麗に治ることが多く、より高密度で移植することが可能である反面、スリットが目視しにくいため移植作業の難易度が高く、移植時間が長くかかる傾向にあります。ホールスリットは、管上のメスや針を使用し円形のスリットを作成する方法です。個々の毛包単位を移植するためのスペースを確保するのに適しており、大きな株の移植や手術時間短縮に向いている反面、ホールという特性上、ラインよりも高い密度での移植が難しいという事や、傷痕が目立ちやすくなる可能性があります。(当院ではFUT法・FUE法ともにラインスリットを採用しています。)
毛根の生着率
高い生着率を求める場合は、手早く移植を行う必要があります。移植する株を長時間生体から離れ血流のない状態に置いてしまうと、せっかくの移植株が定着しないことが起こり得ます。熟練した医師/クリニックによる適切な施術を受ければ、移植した株の90~95%程度の高い生着率が実現できます。
一般的にはたくさんの移植株を採取する場合はFUT法の方が手術時間が短くなる傾向にあり、少ない株数であればFUE法の方が短い時間で移植が可能となります。但し、クリニックによって得意とする術式が異なることがありますので、医師との相談時に医師の経験や看護師の実績などを確認しておくようにしましょう。
治療費
クリニックによって違いはありますが、一般的にFUT法とFUE法では、採取に時間がかかるFUE法の方が費用が高くなる傾向があります。また、FUE法でも採取部位をバリカンで刈る・刈らないによって費用が異なり、刈らない方法は更に高額になる傾向があるようです。FUT法に習熟したクリニックでは効率よく採取と株分けができるため、FUE法よりも費用を抑える事ができます。また、専用の器材を使わない点もコストを抑えられる一因と言えるかと思います。
なお、広告で一見費用が安く見えていても実はモニター(顔出し等の条件がある可能性)や条件付きの場合もあるため、植毛の総費用を事前に必ず確認しておくようにしましょう。
FUT法に対応できるクリニックが少ない理由
現在、FUT法(Follicular Unit Transplantation)を提供しているクリニックは非常に限られており、特に新しく開院したクリニックの多くはFUE法(Follicular Unit Excision)のみを採用しています。その理由を簡潔に申し上げますと、FUT法はFUE法に比べて、施術にかかる手間が多く、対応できる医療スタッフの育成に時間がかかること、さらには技術的なノウハウの蓄積が求められるからです。
FUT法では、後頭部などのドナーエリアから頭皮を帯状に切り取り(後に縫合)、その後、顕微鏡下で毛包単位に分けるという繊細な工程が必要です。この作業には、皮膚を切る・縫うという高度な外科的スキルを持つ医師の存在が不可欠であり、加えて、FUT法に精通した看護師の確保・育成も必要になります。また、手術の過程ではFUE法よりも多くのスタッフを動員する必要がある場合もあり、クリニック全体として高いチームワークと組織力が求められます。
このように、FUT法を継続して提供するためには、FUT法を熟知した人材とノウハウを長期的に維持・運用する体制が不可欠です。したがって、開業間もないクリニックにとっては、工程が比較的シンプルで、採取した時点で移植可能な株が得られるFUE法の方が導入しやすい手術方法といえるでしょう。 ただし、誤解のないように付け加えますと、「FUE法の方がFUT法よりも簡単な手術である」という意味ではありません。FUE法は医師一人ひとりの経験と技術力が大きく成果に影響するのに対し、FUT法はチーム全体の連携や総合的な技術力が求められるという点に、それぞれの大きな違いがあります。
まとめ
FUT法とFUE法は、それぞれに独自のメリットとデメリットがあります。どちらの方法が優れているかは一概には言えず、個々のニーズや状況に応じて無理のないよう選択されるべきです。FUT法は大量移植が可能で自然な仕上がりが期待できる一方、術後の傷跡が気になる場合があります。FUE法は切開が不要で回復が早いものの、毛根の切断率が高くなるリスクや移植数によってはドナー部の密度が低くなる場合があります。植毛手術を検討する際は、自分の薄毛の状態や希望する仕上がり、回復期間、費用などを考慮し、専門の医師と相談しながら最適な方法を選ぶことが重要です。両手法の違いを理解することで、より自身に適した方法を選択することができるでしょう。FUT法とFUE法を正しく理解する為にも、両方の方法を取り扱っているクリニックを含めて、複数のクリニックに相談される事をおすすめします。
1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院として、国内でも数少ないFUT法とFUE法の実績を持つ紀尾井町クリニックでは、中立的な立場に立ってFUT法・FUE法それぞれのメリット・デメリット、副作用、リスク等を、経験豊富な医師が実際の経験に基いて説明させて頂き、直接お悩みを承った上で、一緒に薄毛治療プランを考えております。AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。
監修医師プロフィール
東邦大学医学部医学科卒業後、同大学附属病院泌尿器科に入局し、以降10年以上に渡り手術加療を中心に臨床に従事。男性型脱毛症(AGA)にも関連するアンドロロジー(男性学)の臨床に関わる。2021年より紀尾井町クリニックにて、自毛植毛を中心に薬物治療を組み合わせてAGA治療を行っている。著書として『薄毛の治し方』(現代書林社)を上梓。(詳細プロフィールはこちら)
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 会員
医師 中島 陽太
