FUT法でよくある質問と回答【医師監修】

植毛には現在、大きくFUT法とFUE法の2つの方法があります。紀尾井町クリニックでは、1998年の開院以来、FUT法を取り扱っておりますが、実際にお客様よりあった御質問で多かったものや、重要なもの、誤認されているものなどについていくつか回答と共にご紹介させて頂きます。本コラムに掲載されていない、またはさらに詳細が知りたい方は、無料のカウンセリングや無料のメール相談などをご活用ください。本コラムが植毛を検討されている方の参考になりましたら幸いです。
- 1. FUT法とは
- 1.1. メリット
- 1.2. デメリット
- 1.3. その他の留意点
- 2. Q.FUT法は時代遅れと聞きましたが、問題ないのでしょうか?
- 2.1. A.長年積み上げられた歴史と実績を持つ確立された植毛方法です
- 3. Q.FUT法が出来るクリニックはなぜ少ないのですか?
- 3.1. A.対応できる医療スタッフが限られるからです
- 4. Q.FUT法の手術は痛いのですか?
- 4.1. A.局所麻酔を打つ時にチクリとしますが、その後はほぼ痛みは感じません
- 5. Q.FUT法は傷が残るのですか?
- 5.1. A.後頭部を並行に走る1本の細い線状の縫合痕が必ず残ります
- 6. Q.FUT法は費用が高いのですか?
- 6.1. A.FUT法に慣れているクリニックでは、逆に安くなる傾向があります
- 7. Q.FUT法は何回まで治療できますか?
- 7.1. A.様々な要因により「何回まで」と断言は難しいのですが、一般的には3~4回程度が目安になります
- 8. Q.FUT法は手術時間がFUE法よりも長いのですか?
- 8.1. A.株数が多ければ、基本的にはFUT法の方が短い傾向があると思います
- 9. Q.FUT法はどんな人に向いていますか?
- 9.1. A.広範囲の植毛を希望している方に向いています
- 9.1.1. FUT法に向いている人
- 10. Q.FUE法をした後にFUT法はできますか?
- 10.1. A.できます。しかしFUE法で移植した分だけ密度が下がっているため移植できる株数は少なくなります
- 11. まとめ
FUT法とは
まずは、FUT法について、簡単に紹介させて頂きます。FUT(Follicular Unit Transplantation)は、主に大量のドナーを必要とする植毛に向いている方法です。ドナーエリア(後頭部や側頭部)からストリップ(帯状にした頭皮の組織)を切り取り、そこから毛包単位に移植する株を切り分けてから植毛する手法で、FUSS(Follicular Unit Strip Surgery:ストリップ法)と呼ばれることもあります。FUE法よりも以前からあり、現在でも採用されている確立された植毛方法です。
メリット
- 生涯に採取出来るドナー株数が多い(約5,000~7,000株程度)
- 高い有効採取率(双眼実体顕微鏡を使って手作業で切り分け)
- コスト(FUE法よりも安いことが多いです)
- 狭いバリカン幅(手術後に残るバリカン幅は、縫合部の上下5mmくらい、合計1cm程度のバリカン幅)
デメリット
- メスで頭皮を切る手術である(人によっては心理的なハードルが高いと感じる方がいらっしゃいます)
- 後頭部に横に走る細い線状の縫合痕が1本残る(髪を伸ばす事で隠せます)
- 頭皮の硬い方は採取できるドナー株数が限られる
- 採取予定の株数から実際の株数が上下する(帯状にドナーを塊として採取して、取ってから株分けして数を数えるので、例えば1500株採取を予定した場合でも、「ちょうど1500株採れる」ということはまずありません。若干の誤差があります)
その他の留意点
- ドナー採取して縫合した痕は、基本的には1本の線状痕だが、植毛回数によっては2本になったり傷痕が広がる可能性がある
- ドナー採取後の縫合の際にトリコフィティック縫合法を用いたり、FUE法で傷修正を行う事によって、縫合痕を目立ち難くする事ができる
- 体質によっては傷痕が太く治ることがある
Q.FUT法は時代遅れと聞きましたが、問題ないのでしょうか?
A.長年積み上げられた歴史と実績を持つ確立された植毛方法です
FUT(Follicular Unit Transplantation)法は、1990年代半ばに確立された植毛技術で、それまで主流であったフラップ手術やパンチグラフト法に代わる、より自然な仕上がりを可能にする技術として注目されました。当時の植毛は、不自然な毛並みや生え際になりやすいという課題がありましたが、FUT法は「毛包単位(フォリキュラーユニット)」という自然な毛髪の構造をそのまま移植することにより、見た目の自然さと定着率の向上を両立させました。この画期的な方法は世界的に広まり、約30年以上経った今でもFUT法は世界中で行われています。つまり、それだけの実績がある確立された医療技術という事です。 一方で、FUE(Follicular Unit Excision)法は、2000年代に確立された技術で、メスを使わずに専用のパンチ(筒状の刃)でドナー毛を1株ずつ採取する方法です。FUE法はひとつひとつの傷跡が目立ちにくく、採取痕の治る期間においても一定の利点があるとされています。ただし、FUE法にも限界や注意点があり、例えば大量の株数を移植する際の効率やドナー部への影響など、FUT法の方が適しているケースも少なくありません。
このように、FUT法とFUE法は単に「古い・新しい」という軸で優劣を語るものではなく、それぞれに特性があり、個々の頭皮の状態や希望する移植株数、将来の脱毛進行予測などを踏まえて、適切に選択されるべきものです。実績あるFUT法も、今なお有効かつ安全性の高い選択肢の一つとして、多くの専門医が用いており、ISHRS(国際毛髪外科学会)公式サイトでも「大量の移植の場合はFUTの方が適している」「特定の状況においてはFUTが有効である」等、「FUTは時代遅れ」とは真逆の見解を示しています。
Q.FUT法が出来るクリニックはなぜ少ないのですか?
A.対応できる医療スタッフが限られるからです
FUT法の場合はドナーを帯状に採取した後、採取部を縫合して、株単位に切り分けるという工程が必要となります。ドナーを採取してから株ごとに切り分けて移植するまでのスピードと正確性が重要となってきますが、これには熟練した手術スタッフ(医師と看護師)が複数人、チームとして必要です。この技術習得は一朝一夕でできるものではなく、時間と手間がかかるものです。つまり、FUE法よりも1工程多く、その工程に対応できるスタッフを育てるノウハウと時間、株分けを複数人で行うコストが発生するという事になります。また、FUT法では後頭部の皮膚を切ってから再び縫合する必要があります。こうした手術は、機材を用いずに全て医師の手作業で行われるため、外科的な手技を経験してきた医師ではないと難しいものです。
これに比べるとFUE法は株分けするステップがなく、くり抜いた時点で移植株がほぼ出来ています。そして皮膚を切ってから縫合する必要もありません。そのためFUE法の方が新規に始めやすい手術方法である、ということが言えると思います。FUT法に対応できるクリニックの多くが老舗クリニックであるのに対し、比較的新しいクリニックがほぼFUE法のみに対応しているのはそのような事情もあるのではないかと推察しています。
誤解のないよう申し添えておきますと、決して「FUE法の方がFUT法より簡単である」「FUT法の方がFUE法よりも優れている」というわけではありません。FUE法は医師の個人能力に依存する傾向が強いのに対し、FUT法はチームの総合力が求められるという違いがあるということです。
Q.FUT法の手術は痛いのですか?
A.局所麻酔を打つ時にチクリとしますが、その後はほぼ痛みは感じません
FUT法であればメスを使って皮膚を切ったり、FUE法であれば専用機材を用いて、採取する数分だけ毛根をくり抜いたりするため、どうしても痛みに関する不安はある所かと思います。植毛は局所麻酔を用いて実施されるため、その麻酔を打つ際にチクリと一瞬痛みはありますが、その後は麻酔によって基本的には痛みを感じる事はほぼありません。また当院では、麻酔を打つ前に鎮静剤というリラックスする薬を使用するため、多くの方は麻酔を打つ際に眠っているか、あるいはボーっとしていることが多いです。そのため、局所麻酔の痛みを感じなかった、という方も多くいらっしゃいます(ただし全身麻酔と異なり、鎮静剤は眠ることを保証するものではありません。体質によって鎮静剤を使用しても、あまり効果の実感がない方もいらっしゃいます)。詳しくは手術を行うクリニックにてご確認ください。
Q.FUT法は傷が残るのですか?
A.後頭部を並行に走る1本の細い線状の縫合痕が必ず残ります
FUT法では、ドナー部(後頭部から側頭部)から帯状に切り出して縫合する為、必ず縫合痕が残ります。傷痕を目立たないようにするためのトリコフィティック縫合法を用いているクリニックもあります(当院では標準採用)。この縫合痕は、医師の技量や患者さんの体質、状態などによって個人差があり、目立ちやすくなる場合があります。もし気になる場合は、FUE法による傷修正(傷自体に植毛を施すことで傷を目立ち難くする)やSMP(Scalp Micropigmentation。いわゆるヘア・タトゥー)で目立たなくする事ができます。なお、FUE法でも必ず傷痕が残りますので、その点は注意が必要です。FUE法は一つ一つの傷痕は1mm程度の小さな米粒大の傷痕ですが、例えば1000株採取した場合は、ドナー採取部の後頭部や側頭部に1000個の傷痕が残ります。さらに、FUT法とは違いFUE法は傷を縫合せずに解放したままにしますので、採取数が多いほどドナー採取部の密度が低下していきます。
FUT法は線状の傷痕が残るため、小さい傷跡が分散して残るFUE法よりも目立ちやすい傾向にはありますが、どちらもスキンヘッドのように極端に短い髪型にすれば傷痕は見えてしまいますし、周囲の髪を伸ばすことで傷痕を隠すことができます。FUT法・FUE法のいずれにしても、必ず自身が移植する予定の株数と同等の傷痕症例を数例確認しておきましょう。複数のクリニックで確認をしておくと尚よろしいかと思います。
Q.FUT法は費用が高いのですか?
A.FUT法に慣れているクリニックでは、逆に安くなる傾向があります
FUT法は、FUE法とは違って、「株分け」という工程が一つ増えていて、さらに人数をかけて行うため、費用がFUE法に比べると高くなると思われている方もいらっしゃいます。しかし、FUT法に慣れているクリニックでは、FUE法よりも安い場合がほとんどだと思います。 FUE法は医師が、一株ずつ専用の機械を使ってドナー部からくり抜いていきますが、FUT法では、医師がドナー部を帯状に切り出した後、複数名の経験豊富な看護師が手分けをして一株ずつ株分けを迅速に行います。つまり、移植株を用意する為に使う時間は、同じ数を移植する場合、FUT法の方が通常は少なくて済むことがほとんどです。またFUT法はFUE法のように専用の器機を用いません。
もし、FUT法の方が高い場合は、特殊な方法を用いているか、FUT法に慣れていない、経験豊富なスタッフが不足している等の可能性がありますので、念のために確認をしておくと良いでしょう。
Q.FUT法は何回まで治療できますか?
A.様々な要因により「何回まで」と断言は難しいのですが、一般的には3~4回程度が目安になります
FUT法による自毛植毛手術を受けられる回数には、いくつかの要因が絡み合っており、一概に「何回まで」と断言することは難しいです。最も大きな要因は、ドナーとなる後頭部の頭皮の伸縮性です。FUT法では帯状に頭皮を採取するため、複数回行うと頭皮が硬くなったり、採取できる量が減ったりします。また、ドナー部分の毛髪密度や、前回のFUT手術による傷跡の状態も影響します。一般的に、無理しない範囲で最大限にドナーを採取した場合、FUT法での手術は3~4回程度、合計採取株数が5000~7000株くらいが目安となります。1回目で広範囲に移植し、2回目以降で密度を高めたり、薄毛の進行に合わせて追加したりするケースが考えられます。
ただし、これはあくまで一般的な目安であり、個人の頭皮の状態、毛髪の質、希望する移植範囲や密度によって大きく異なります。無理な手術はドナー部分の不自然な薄毛や傷跡の悪化を招くリスクがありますの注意が必要です。 最終的には、ご自身のドナーの状態を専門医に詳細に診察してもらい、将来的な可能性も含めて相談し、最適な治療計画を立てることが最も重要です。医師は、FUE法やAGA治療薬との組み合わせなど、他の選択肢も考慮してアドバイスをしてくれるでしょう。
Q.FUT法は手術時間がFUE法よりも長いのですか?
A.株数が多ければ、基本的にはFUT法の方が短い傾向があると思います
FUT法とFUE法の手術時間を比較すると、同じ株数の手術だとした場合、採取株数が多い場合はFUT法の方が短い傾向があります。FUT法では後頭部のドナー部位から帯状に頭皮を切り取り、皮膚を縫合します。採取した帯状の頭皮を複数名の看護師が、顕微鏡で見ながら手作業で毛包単位に分割して移植株を用意します。このように、頭皮を縫合する医師チームと、移植株を分割する看護師チームが分かれて同時進行で必要な株数を作っていくため、沢山の移植株を作る場合には比較的短い時間でできることが多いです。例えば、FUT法における1000株の手術と2000株の手術を比較した場合、2000株の手術の方がドナー部を長く採取する必要があり、その分長い傷を縫合する必要があるため多少時間がかかりますが、「2000株の手術時間が、1000株の手術時間の2倍」かかるわけではありません。
一方、FUE法では各グラフトを1個ずつくり抜いて採取するため、株数が多ければ多いほど時間が長くかかる傾向があります。上記の例でいえば、FUE法の場合は「2000株の手術時間が、1000株の手術時間の2倍」かかるのです。ただし、個々の手術内容や進行状況、医師や看護師の技術、使用する機器などによっても時間は異なるため、全てのケースで当てはまるわけではありません。
Q.FUT法はどんな人に向いていますか?
A.広範囲の植毛を希望している方に向いています
FUT法に向いている人はどの様な方なのかを見ていきましょう。ここで挙げているのはあくまでも目安で、個々の体質や状況、ご希望、さらにはクリニックの経験・実績などによって異なる場合がありますので、実際にはカウンセリングの際に医師に詳細をご相談下さい。
FUT法に向いている人
- 広い範囲の植毛を希望する方(当院での推奨は1,000株以上)
生涯で採取できる株数が約5,000~7,000株程度とFUE法の2倍以上あるため、FUE法よりも広い範囲や進行するAGAにも対応できる可能性があります。 - 採取株を出来るだけ有効活用したい方
帯状に切り出したドナー部分から、双眼実体顕微鏡を使って目視にて手作業で切り分けていくため、ほぼ全ての株を有効活用する事ができます。 - 費用を抑えたい方
FUT法はFUE法に比べると、およそ半分~2/3程度の金額で実施する事ができます。(同株数の場合) - 手術時間を出来るだけ短くしたい方
株数が多い場合はFUT法の方がFUE法よりも手術時間が短い傾向にあります。 - バリカン幅を狭くしたい方
採取部分をバリカンで刈りますが、採取後に縫い合わせる為、バリカン幅はFUE法に比べると狭くなります(術直後に残るバリカン幅はだいたい1cmくらいです)。1本の線状の縫合痕が残りますが、トリコフィティック縫合法で目立ち難くしたり、FUE法による傷修正やSMPなどで更に目立ち難くさせる事ができます。
Q.FUE法をした後にFUT法はできますか?
A.できます。しかしFUE法で移植した分だけ密度が下がっているため移植できる株数は少なくなります
FUE法の後にFUT法を行うことは可能ですが、留意しておく点があります。FUE法では後頭部などのドナー部位から株を1つずつくり抜くため、その部分の密度がくり抜いた数に比例して低下していきます。FUT法は頭皮を帯状に切り取って株を採取する方法ですが、すでにFUE法で採取された部位は毛包の密度が下がっているため、FUT法で切除しても採れる株の数が限られてしまいます。つまりFUE法を行っていない人に比べると採取できる株数が少なくなるということです。また、多くの数をFUE法で移植した場合、ドナー部分の密度が下がり過ぎていて、FUT法でできる線状の縫合痕が隠しにくくなってしまう可能性があります。そのため、それらを踏まえた上でFUE法の後にFUT法を行う場合は、事前にドナー部の状態を十分に考慮し、移植可能な株数や仕上がりについて医師とじっくり相談をすることが重要です。もし将来を見据えて数回の植毛を検討される可能性がある場合は、事前にFUT法とFUE法の両方に対応しているクリニックでも治療計画を相談しておくと良いでしょう。
まとめ
FUT法について、よくある質問をその回答と共にいくつかご紹介させて頂きました。FUT法は実際に対応できるクリニックが少なく、実績に基いた正確な情報がなかなかインターネット上では少ないため、植毛方法でお悩みの方々のお役に少しでも立てたらと思い記事にさせて頂きました。FUT法もFUE法も正確な情報を、それぞれの特徴やメリット・デメリット、リスクや副作用などと一緒に医師からご説明をさせて頂いた上で、ご判断いただく事が薄毛に悩む方にとっても最良なのではないかと思っております。植毛をご検討の方は、複数のクリニックで話を聞いて、植毛について理解を深めた上で、ご自身に合うと思われるクリニックや方法で植毛をなさるのがよろしいかと思います。その他、植毛に関するご質問と回答は、「よくあるご質問」をご参照頂くか、当院の「メール相談フォーム」よりご相談下さい。
1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院として、国内でも数少ないFUT法とFUE法の実績を持つ紀尾井町クリニックでは、FUT法・FUE法それぞれのメリット・デメリット、副作用、リスク等を、経験豊富な医師が実際の経験に基いて説明させて頂き、直接お悩みを承った上で、一緒に薄毛治療プランを考えております。AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。
監修医師プロフィール
東邦大学医学部医学科卒業後、同大学附属病院泌尿器科に入局し、以降10年以上に渡り手術加療を中心に臨床に従事。男性型脱毛症(AGA)にも関連するアンドロロジー(男性学)の臨床に関わる。2021年より紀尾井町クリニックにて、自毛植毛を中心に薬物治療を組み合わせてAGA治療を行っている。著書として『薄毛の治し方』(現代書林社)を上梓。(詳細プロフィールはこちら)
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 会員
医師 中島 陽太
