薄毛(はげ)と運動の関係【医師監修】

薄毛に悩む多くの方にとって、「運動が髪に良い影響を与えるのか、それとも悪影響になるのか?」は気になるポイントではないでしょうか。しかし、運動が薄毛(はげ)の進行にどう関与するかについては誤解も少なくありません。本コラムでは、有酸素運動・筋力トレーニング・ヨガなど様々な運動が薄毛に及ぼす影響を医学的に解説し、適切な運動習慣のポイントを紹介します。また、AGA(男性型脱毛症)やFPHL(女性型脱毛症)などとの関係、ホルモンバランスや自律神経、血流など運動が髪に影響を与える仕組みも取り上げます。さらに日常生活に運動を取り入れる際の注意点などについても紹介していきます。運動と薄毛の正しい関係を理解し、健康的な生活習慣づくりに役立てましょう。
- 1. 薄毛(はげ)の原因と運動が関与するポイント
- 2. 適度な運動がもたらす髪へのメリット
- 2.1. 血行促進による頭皮環境の改善
- 2.2. ストレスホルモンの軽減と自律神経の安定
- 2.3. 生活習慣の改善(睡眠・栄養への波及効果)
- 3. 有酸素運動は薄毛予防に効果的
- 4. 筋力トレーニング(筋トレ)と薄毛の本当の関係
- 4.1. 「筋トレ=男性ホルモン増加でハゲる」は誤解
- 4.2. 筋トレのメリットとデメリット
- 4.3. ステロイド使用や極端なボディメイクはリスクとなり得る
- 5. ヨガ・ストレッチと薄毛:自律神経への作用
- 6. 過度な運動は薄毛のリスクを高める?
- 7. 無理な減量を伴う運動は要注意
- 8. 薄毛予防のための実践的な運動習慣
- 8.1. 適度な頻度と継続が鍵
- 8.2. 運動後は頭皮を清潔に
- 8.3. 水分・栄養補給を忘れずに
- 8.4. 無理な運動スケジュールはNG
- 8.5. 自分に合った運動を選ぶ
- 9. まとめ
薄毛(はげ)の原因と運動が関与するポイント
薄毛や抜け毛の原因は一つではなく、複数の要因が重なって生じます。代表的な脱毛症であるAGAは、男性ホルモン由来のジヒドロテストステロン(DHT)が毛根に作用し、髪の成長周期を短縮してしまうことが主な原因です。一方、女性に多くみられるFPHL(FAGA、びまん性脱毛症など)は、ホルモンバランスの変化や加齢、ストレス、栄養不足といった生活習慣要因が重なり合って、全体的に髪が細くなるのが特徴です。さらに男女を問わず、強いストレスや急激なダイエットによって一時的に抜け毛が増える「休止期脱毛(激やせ後の抜け毛)」が起こることもあります。
このように、薄毛(はげ)の発症には遺伝的な要素だけでなく、日々の生活習慣や身体の状態が密接に関わっています。その中でも運動は、「血行」「ホルモンバランス」「自律神経(ストレス)」「生活習慣」といった複数の要素を通じて、髪や頭皮の健康に影響を与える重要な要因のひとつです。
適度な運動は全身の血流を促進し、毛根への酸素や栄養の供給を助けます。またストレスを緩和し、自律神経やホルモンのバランスを整える働きもあることから、髪の成長環境の改善につながると考えられています。反対に、運動不足が続くと血流や代謝が滞り、頭皮環境の悪化やホルモンバランスの乱れを招くことがあります。薄毛対策において運動は直接的な治療ではありませんが、頭皮の血行改善やストレス軽減を通じて髪が育ちやすい身体づくりを支える重要な生活習慣といえます。以下では、適度な運動が髪や頭皮に与える良い影響を解説し、続いて運動の種類ごとの特徴や、過度な運動・無理な減量がもたらすリスクについて詳しく見ていきましょう。
適度な運動がもたらす髪へのメリット
適度な運動習慣は全身の健康に良いだけでなく、髪の毛の成長環境を整える上でも大きなメリットがあります。適度な運動とは、息が弾み軽く汗ばむ程度の有酸素運動や無理のない筋力トレーニング、リラックス効果のあるヨガやストレッチなどが該当します。こうした運動を習慣的に行うことで得られる代表的な効果を、髪の観点から3つ紹介します。
血行促進による頭皮環境の改善
運動すると血液循環が高まり、身体の末端である頭皮にも十分な血液が行き渡りやすくなります。血液は毛根(毛乳頭)に酸素や栄養素を届け、老廃物を回収する役割があります。つまり運動不足で血行が悪いと毛根への栄養供給が滞り、髪が十分に育たない原因となります。一方、適度な有酸素運動やストレッチによって全身の血流が良くなると毛細血管を通じて毛根に栄養が届きやすくなり、髪のハリやコシの維持が期待できます。このように適度な運動は頭皮の血行を促し、髪が成長しやすい土台作りに寄与します。
ストレスホルモンの軽減と自律神経の安定
適度に身体を動かすことはストレス解消にも効果的であり、間接的に抜け毛のリスクを下げます。人はストレスを感じると交感神経が優位になり、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増えて血管収縮や免疫低下を招きます。慢性的なストレス下ではこの作用で頭皮の血行不良やホルモンバランスの乱れが起こり、抜け毛が進行しやすくなります。運動にはこの悪循環を断つ効果があります。適度な運動は脳内でセロトニン(「幸福ホルモン」)の分泌を促し、精神を安定させるとともにコルチゾール濃度を下げる働きが期待できます。例えば軽いジョギングやヨガ、ジムでのエクササイズ後に爽快感を得られるのはこのためです。また体を動かすと一時的に日常の悩みから注意を逸らすことができ、適度な疲労感によって夜ぐっすり眠れるようになるため、自律神経のバランスが整いやすくなります。副交感神経がしっかり優位になると成長ホルモンの分泌も促され、髪や肌の細胞修復がスムーズに行われます。このように、運動はストレスによる薄毛リスクを減らし、心身のリラックス効果で髪に好影響をもたらします。
生活習慣の改善(睡眠・栄養への波及効果)
運動を習慣化すると、併せて生活リズムや食事内容の見直しにつながる場合もあり、結果的に薄毛対策の相乗効果が得られます。十分な睡眠は成長ホルモン分泌を高め髪の成長を促しますし、栄養面ではタンパク質やビタミン・ミネラルをしっかり摂る食習慣が髪にプラスの効果を与えます。運動することで食欲が増して栄養補給がスムーズになるという利点もあります。さらに適度な運動習慣は飲酒や喫煙の頻度を減らすきっかけにもなり得ます(運動するとお酒が残りやすくなるため自然と飲酒量を控える等)。このように、運動は髪に良い他の生活習慣(睡眠・栄養・嗜好品の節制など)への意識向上をもたらし、総合的に薄毛リスクを下げる方向に働く可能性もあるのです。
以上のように、適度な運動には「血行促進」「ストレス解消」「生活習慣の改善」という三拍子の効果が期待でき、髪にとってもプラスに働きます。ただし誤解してはいけないのは、運動はあくまで髪が育ちやすい体内環境をサポートする手段であり、直接的に発毛を促す治療ではないという点です。特にAGA(男性型脱毛症)のように遺伝的要因や男性ホルモンの影響が大きい薄毛の場合、運動だけで進行を止めることは難しく、適切な医療処置(AGA治療薬の服用や専門クリニックでの治療)を検討すべきです。しかし運動によって髪によい生活基盤を整えることは、治療の効果を高めたり予防策として薄毛の進行を緩やかにする上で有益です。では具体的に、どのような種類の運動が薄毛対策に適しているのか、逆に注意すべき運動は何かを見ていきましょう。
有酸素運動は薄毛予防に効果的
まず注目すべきは有酸素運動です。ウォーキングやジョギング、サイクリング、スイミングといった有酸素運動は心肺機能を高め全身の血流を増やすため、薄毛の予防や改善に特に効果が期待できます。運動による血行促進効果は前述の通りですが、なかでも有酸素運動は長時間継続することで毛細血管の隅々まで血液を行き渡らせるのに適しています。有酸素運動を行うことで幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンの分泌も活発になりストレス解消効果も高まるため、ストレス性の薄毛対策としても一石二鳥といえるでしょう。
有酸素運動として具体的におすすめなのは、ウォーキングや軽いジョギングです。ポイントは「少し息が弾むが会話はできる程度」の強度で続けることで、時間にして1回20〜30分程度を週に3〜5回行うのが理想です。例えば通勤時にひと駅手前で下車して歩く、エレベーターではなく階段を使うなど日常の中で小分けに運動量を増やす工夫でも効果があります。運動は「継続すること」が何より大切なので、平日の昼休みに15分歩き夜に15分歩くといった形でもトータル30分/日になればOKです。一方で「週1回だけ2時間激しい運動をする」という極端なやり方は継続しづらく、体への負担も大きいため薄毛対策には向きません。むしろ軽めの有酸素運動を毎日コツコツ行うほうが、安定した血行促進と自律神経安定の効果が得られます。
具体例として、ウォーキングは身体への負担も少なく続けやすい有酸素運動です。姿勢よく腕を振って歩幅を大きめに取り、1日30分程度のウォーキングを週に4〜5日行うだけでも頭皮を含めた全身の血流の改善が期待できるでしょう。続けるうちに体力がついてきたら、時折軽くジョギングを混ぜても良いでしょう。その他、膝や腰への負荷が気になる方にはサイクリングやスイミングもおすすめです。自転車での通勤通学や休暇日のサイクリング、スイミングは全身運動で血行促進効果が高いうえ、趣味として楽しみながら継続しやすい利点があります。いずれの場合も、やりすぎは禁物で「適度」に留めることが大切です。、自分の体力と相談しながら無理のない範囲で取り組みましょう。
筋力トレーニング(筋トレ)と薄毛の本当の関係
続いて、筋力トレーニング(無酸素運動)が薄毛に与える影響について考えてみます。当院に相談に来られる方の中でたまに「筋トレをすると男性ホルモンが増えてハゲるのではないか?」と心配する声もあります。しかし、現在の医学的知見によれば「適度な筋トレ自体が薄毛の直接原因になる可能性は低い」とされています。ここでは筋トレが薄毛にまつわる噂の理由と、実際に注意すべきポイントを解説します。
「筋トレ=男性ホルモン増加でハゲる」は誤解
筋トレにより一時的にテストステロン(男性ホルモン)値が上昇することは事実です。AGAの原因物質であるDHTはテストステロンから生成されますが、テストステロンが増えたから即座にDHTが過剰に産生され薄毛が進む、という単純な図式ではありません。そもそもテストステロンそのものは髪に悪影響を与えるホルモンではなく、DHTへの変換度合いや毛根の感受性(遺伝要因)によって薄毛リスクが決まります。筋トレ程度で体内のDHT量が劇的に増える明確なエビデンスはなく、適度な筋トレでAGAが悪化する確たる証拠も現時点で存在しません。むしろ筋トレに励むことで血行促進や成長ホルモン分泌促進(運動後に分泌が高まる)など良い効果も得られるため、必要以上に心配する必要はないでしょう。筋トレそのものよりも、AGAは遺伝的要素やホルモンの体質的な部分が大きいため、「筋トレ=ハゲる」というより「元々AGAリスクが高い人が筋トレもしていると、因果関係があるように見えてしまう」ケースが多いと考えられます。
筋トレのメリットとデメリット
筋トレには筋力向上や基礎代謝アップによる健康増進効果があります。髪に関していえば、筋トレにより全身の血流が改善し頭皮への栄養供給が良くなるメリットが期待できます。また、適度な筋トレは成長ホルモンの分泌を促すため、筋肉だけでなく髪や肌の新陳代謝にも良い影響を与える可能性があります。さらに筋トレを習慣化すると生活にハリが出てストレス発散にもつながるため、総合的に見れば「正しいやり方で行う筋トレは髪にとってプラス」と言えるでしょう。一方で、筋トレに取り組む際にはいくつか注意点もあります。その一つが栄養面です。筋肉をつけるには十分なタンパク質摂取が不可欠ですが、髪の毛も主成分はタンパク質(ケラチン)です。筋トレ後の筋繊維修復にタンパク質が優先的に消費されると、髪に回る分が不足する恐れがあります。そのため筋トレ中は普段以上に高タンパクかつバランスの良い食事を心がけ、髪の成長に必要な栄養素(亜鉛、鉄分、ビタミン類など)も意識して補給することが大切です。もう一点の注意はトレーニング強度です。後述するように、過度な筋トレは疲労の蓄積や睡眠不足、ストレス増大を招き結果的に血行を悪化させるリスクがあります。適度な範囲で筋トレを行う分には血行促進のメリットが勝りますが、無理をしてオーバートレーニング状態になると逆効果になり得ます。要は、「筋トレ自体が悪い」のではなく「極端なやり方をすると髪にも悪影響が及ぶ可能性がある」ので注意が必要、ということです。
ステロイド使用や極端なボディメイクはリスクとなり得る
上記の議論はあくまで通常の筋トレの場合ですが、仮に筋肉増強目的でアナボリックステロイドなどの薬剤(男性ホルモン製剤)を不適切に使用すれば話は別です。これらは体内の男性ホルモン量を人工的に高めるため、AGAの素因がある人では急激に脱毛が進行する危険があります。また短期間で体脂肪を極限まで落とすボディビル競技の減量は、栄養不足とホルモン環境の急変により一時的な脱毛(休止期脱毛)を引き起こすことがあります。一般の健康目的の筋トレであればまず心配ありませんが、髪のためには筋肉増強サプリ等の使用にも注意が必要です。例えばプロテイン(タンパク質サプリ)は髪にも有益ですが、極端な糖質制限ダイエット中にプロテインばかり摂るとエネルギー不足でせっかくのタンパク質が髪に回らない恐れがあります。いずれにせよ、筋トレをするなら栄養補給と休養を十分に取り、正しいフォームで無理なく行うことが髪にも体にも良いという基本を押さえておきましょう。
まとめると、適度な筋トレは薄毛の直接原因にはなりにくく、むしろ血行促進やストレス緩和を通じて髪に良い影響を与える可能性があります。ただし栄養不足や睡眠不足、過度なストレスを招くような無理なトレーニングは髪の成長にマイナスとなるため避けましょう。筋トレで体を鍛えつつ髪のケアも両立させたい場合は、筋トレ後の十分な休息とタンパク質・ビタミン類のバランス良い補給、さらに必要に応じて育毛剤の使用やクリニックでのAGA治療薬併用も検討すると良いでしょう。
ヨガ・ストレッチと薄毛:自律神経への作用
ヨガやストレッチなどの緩やかな運動も、薄毛対策の一環としては見逃せない存在です。
ヨガはポーズ(体位法)と呼吸法を組み合わせ、心身の緊張をほぐしながらリラックスを促す運動法であり、古くから自律神経のバランスを整える手段として知られています。ストレスと薄毛の関係はすでに述べた通り、慢性的なストレスはホルモン分泌の乱れや血行不良を引き起こし、結果として毛根への酸素・栄養供給が滞ることで髪の成長を妨げます。
この点、ヨガや軽いストレッチは副交感神経を優位に導き、心拍数や呼吸数を穏やかにすることで、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を抑制します。これにより、過度な緊張状態から解放され、頭皮の血流改善や睡眠の質の向上など、髪の成長にとって望ましい生理的環境を整える効果が期待できます。また、深い呼吸を意識しながら行うヨガのポーズは、酸素の取り込み量を増やし、体内の代謝を高める働きもあります。血流が促進されることで、頭皮の毛細血管にも十分な酸素と栄養が行き渡り、毛母細胞の活動が活発になります。
薄毛や抜け毛が進行する背景には、ストレスによる自律神経の乱れや睡眠不足、ホルモンバランスの変化が関係することが多く、ヨガはこれら複数の要因に同時にアプローチできる点で、髪の健康維持にも好ましいと考えられます。
また、ヨガやストレッチは性別や年齢を問わず安全に始められる点も大きな利点です。特別な器具を必要とせず、自宅で短時間から取り入れられるため、継続しやすい生活習慣として定着しやすいという特徴があります。ただし、体が硬い人が無理にポーズをとろうとしたり、呼吸を止めてしまうと、筋や腱を痛めたり血圧を上昇させる恐れがあります。重要なのは「無理をしないこと」と「呼吸を止めないこと」です。自分が心地よいと感じる範囲で、ゆっくりと体を伸ばしながら呼吸を整えるようにしましょう。
週に2〜3回でも継続することで、ストレスの軽減や睡眠の改善、血流促進など、全身のリズムが整い始めます。これらの変化はやがて頭皮の状態にも好影響を及ぼし、抜け毛の減少や髪のハリ・コシの回復といった形で現れてくる可能性があります。運動の中でもヨガやストレッチは、心身の安定を通じて髪の健康を支える「間接的な薄毛予防法」として位置づけられるでしょう。
過度な運動は薄毛のリスクを高める?
ここまで適度な運動の利点を述べてきましたが、注意しなければならないのは「過度な運動」です。どんなに体に良いとされることでも、やりすぎれば逆効果になる場合があります。運動も例外ではなく、オーバートレーニング(極端に激しい運動を長期間続けること)は体に大きなストレスを与え、結果としてホルモンバランス全体の乱れを引き起こす恐れがあります。特定のホルモンだけが増減するというより、過剰なストレスで体内の恒常性維持機能がうまく働かなくなり、内分泌系・自律神経系が混乱してしまうイメージです。
例えば、マラソン選手のように長時間の激しい持久的運動を続けると、一時的にコルチゾールが平常時を大きく上回るレベルで分泌されることが報告されています。また、筋トレでも休息日を設けず毎日追い込むようなやり方をすると、常に交感神経が昂ぶった状態が続き睡眠の質が低下します。このような慢性的な疲労とストレスの蓄積は、薄毛につながる悪条件を積み重ねてしまいます。具体的には、過度な運動で疲弊すると睡眠不足や免疫力低下を招きます。睡眠不足になれば成長ホルモン分泌が減少し髪の成長サイクルが乱れますし、免疫力が低下すると頭皮の炎症トラブルが起きやすくなる可能性があります。さらに血行の面でも、適度な運動なら促進されるはずの血流が、過剰な運動では常態化した疲労によりかえって低下する場合があります。運動直後は血行が良くても、その後の回復が追いつかず疲労が抜けきらないままだと、全身の循環機能が落ち込んでしまうのです。
特に注意すべきは女性の場合です。過度な運動による体脂肪低下やストレスは、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌にも影響します。女性アスリートで月経不順や無月経が起こることがありますが、これは過度な運動でエストロゲン分泌が乱れているサインです。エストロゲンには髪の成長を助ける作用があるため、無月経になるほど体脂肪が減少したりストレスがかかっている状態は髪にとってマイナスです。実際、女性ホルモンの乱れはFPHL(女性型脱毛症)の発症リスクを高めるとされています。男性でも、激しい持久運動を長期間行うと一時的にテストステロン値が平常より低下する例が報告されており(いわゆるオーバートレーニング症候群)、性ホルモン全体のバランスが崩れてしまうケースがあります。以上により、「運動は適度なら薬になるが、過剰なら毒になる」という教訓は髪の毛にも当てはまると言えるでしょう。自分の体力を超えた無理な運動は控え、疲労が残る場合はしっかり休養を取ることが大切です。
無理な減量を伴う運動は要注意
ダイエットのために過激な運動を取り入れるケースにも触れておきます。短期間で体重を減らそうとするあまり、過度な食事制限とハードな運動を組み合わせる方がいますが、これは髪の毛に非常に良くありません。極端なダイエットで栄養不足に陥ると、体は生命維持に必要な臓器に優先的に栄養を回し、髪への供給は後回しになります。具体的には、糖質を極端にカットするダイエットではエネルギー不足を補うため体内のタンパク質が消費されてしまい、本来髪の成長に使われるべきタンパク質が不足します。髪の毛を作る材料そのものが足りなくなるため、抜け毛が増えたり髪が細く弱々しくなってしまうのです。また、脂質を極端に制限すると頭皮が乾燥しやすくなり、逆に皮脂分泌が増えてフケやかゆみを招くことがあります。頭皮環境の悪化は抜け毛リスクを高めるため、炭水化物・タンパク質・脂質をバランス良く摂取することが髪のためには重要です。
さらに、過度なダイエット中の運動は肉体的・精神的ストレスを大きく増加させます。食事制限とハードな運動による慢性的なストレス状態が続くと、自律神経が乱れて頭皮の血行が悪くなり、ホルモンバランスも崩れてしまいます。その結果、様々な脱毛症を発症する可能性が高まることにつながります。身体にとって大きなストレスがかかり、髪の毛が一斉に休止期に入って抜け落ちてしまう休止期脱毛症(いわゆる「ダイエットによる薄毛」)などはその典型例です。
では、健康的に体重を落としつつ髪を守るにはどうしたらよいでしょうか。基本は「徐々に減量する」「極端な食事制限はしない」ということです。運動も食事管理も「継続できる範囲で少しずつ」が鉄則です。具体的には、1日の摂取カロリーを少し減らしつつ(炭水化物も適量取り、タンパク質と野菜を多めに)、有酸素運動を中心に適度に体を動かす方法です。無理な食事制限や負荷の大きい運動でストレスをかけすぎないようにするのが薄毛予防の観点でも重要です。例えば以下のような行動は髪にも体にもストレスになるため避けましょう。
- 特定の食品だけを食べ続ける極端な食事(単品ダイエット)
- 全く食事を摂らない絶食やそれに近い断食の長期継続
- 短期間で無理な減量目標(◯kg減を◯週間で、など)を設定する
- 空腹時に激しい運動を行う(低血糖状態での運動は危険)
- 毎日体重計の数字に一喜一憂してストレスを溜める
どれも過度なストレスを生む行動例です。髪の毛は体の状態を映す鏡のようなものですから、痩せることばかりに囚われず心身の健康を第一に考えることが、結果的に美しい髪を保つことにつながります。無理のない範囲で運動と食事改善を行うことが髪の毛だけでなく心身の健康のためにも理想的です。
薄毛予防のための実践的な運動習慣
最後に、日常生活の中で無理なく続けられる運動習慣と、その際の注意点をまとめます。髪の健康を意識しながら運動することで、効率よく薄毛対策に取り組みましょう。
適度な頻度と継続が鍵
繰り返しになりますが、「少し物足りない」くらいの運動を週に3〜5回ペースで継続することが大切です。一度に頑張りすぎるより、「今日は軽めにウォーキング15分」でも休まず継続するほうが薄毛予防効果は高まります。まずはエレベーターではなく階段を使う、近場なら車でなく徒歩で行くなど、日常の動きを増やすことから始めてみましょう。慣れてきたら週末に少し長めに歩く、ジョギングに挑戦する、と段階的に負荷を上げると良いです。運動習慣が身につけば生活習慣の見直しにも波及して行くことが期待できます。
運動後は頭皮を清潔に
運動して汗をかいた後、そのまま放置すると頭皮に雑菌が繁殖しやすくなります。運動後はできるだけ早めにシャワーで汗を流し、余分な皮脂を落としましょう。ただし、1日に何度もシャンプーすると必要な皮脂まで奪ってしまい、かえって頭皮が乾燥してトラブルを招くことにつながる可能性があるため注意が必要です。基本的にシャンプーは1日1回程度までとし、運動後はお湯で流す程度に留めたり、乾いたタオルで頭皮の汗を拭き取っておくなど工夫をすると良いでしょう。頭皮を清潔に保つことは毛穴の詰まりを防ぎ、抜け毛予防に繋がります。
水分・栄養補給を忘れずに
運動時にはこまめな水分補給が必要ですが、これは髪のためにも重要です。体が脱水状態になると血液粘度が上がり血行が悪くなるため、せっかく運動しても頭皮に十分な血液が届きにくくなります。適度に水やスポーツドリンクで水分・電解質を補給しましょう。併せて、運動する日は普段よりタンパク質やビタミン・ミネラルを意識して摂取してください。汗とともに亜鉛や鉄分も失われやすいため、レバーや赤身肉、魚、大豆製品、緑黄色野菜などバランス良く食べることが大切です。特に髪の主成分であるタンパク質は、運動後30分以内にプロテインや牛乳などで補給すると筋肉と髪双方の回復に役立ちます。激しい運動後に食欲が低下する人もいますが、その場合はスムージーやヨーグルト飲料など喉越しの良いもので栄養補給すると良いでしょう。
無理な運動スケジュールはNG
忙しい中で運動時間を捻出するのは大変ですが、だからといって睡眠時間を削って運動するのは本末転倒です。睡眠不足は育毛の大敵であり、過度な運動以上に髪に悪影響を及ぼします。夜遅くに激しい運動をすると交感神経が高ぶって寝付きが悪くなることもあります。運動する時間帯としておすすめなのは、朝〜夕方の日中です。仕事などで難しければ、少なくとも就寝直前や起床直後の高強度な運動は避け、寝る2〜3時間前までに軽いストレッチ程度にとどめておきましょう。また、週単位でも「平日は全く動かず週末にまとめて◯時間運動」というメリハリ型より、毎日少しずつ動く方が髪には良いと意識するようにしておいてください。
自分に合った運動を選ぶ
最後に、継続するためには自分が楽しめる運動を選ぶことが大切です。義務感だけで嫌々続けてもストレスになっては意味がありません。人によってはジムでマシントレーニングが好きな方もいれば、音楽を聴きながら走るのが楽しい方、友人とスポーツをすることで続けられる方など様々です。飽きやすい場合はウォーキング・筋トレ・ヨガなど複数のメニューをローテーションするのも良いでしょう。重要なのは「無理なく楽しみながら動く」ことであり、その結果として血行促進やストレス解消効果が得られれば髪にもプラスになります。ご自身の性格やライフスタイルに合った運動スタイルを見つけ、長期的な習慣にしていきましょう。
まとめ
運動と薄毛(はげ)の関係について、良い面と悪い面の両方を解説してきました。適度な運動は血流促進やストレス軽減、生活習慣の改善を通じて髪に良い影響を与え、薄毛予防・対策の強い味方となります。一方、過度な運動や無理な減量はホルモンバランスの乱れや栄養不足を招き、かえって薄毛を悪化させるリスクがあることもご紹介しました。要は「何事も適度に」ということで、運動も量・強度ともにちょうど良い範囲で続けることが肝心です。
髪の悩みを抱える方は、ぜひ日々の運動習慣を見直してみてください。運動不足が続いているなら、今日から少し歩いてみるだけでも大きな第一歩です。逆に「筋トレのしすぎかも?」という方は一度休息日を作り、睡眠と栄養をしっかり取るようにしましょう。運動は薄毛対策の万能薬ではありませんが、髪と頭皮の健やかさを支える重要な生活習慣の一つです。適度な運動を取り入れて身体の内側から髪をサポートしつつ、必要に応じて育毛剤の使用や専門医への相談など他の対策も組み合わせるとより効果が期待できます。
1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院として実績を持つ紀尾井町クリニックでは、長年のノウハウを持った医師が診療にあたり、AGA治療薬から自毛植毛治療までを提供していますので、まずはお気軽にご相談ください。
監修医師プロフィール
東邦大学医学部医学科卒業後、同大学附属病院泌尿器科に入局し、以降10年以上に渡り手術加療を中心に臨床に従事。男性型脱毛症(AGA)にも関連するアンドロロジー(男性学)の臨床に関わる。2021年より紀尾井町クリニックにて、自毛植毛を中心に薬物治療を組み合わせてAGA治療を行っている。著書として『薄毛の治し方』(現代書林社)を上梓。(詳細プロフィールはこちら)
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック東京本院 院長
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 会員
医師 中島 陽太

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