女性の薄毛(FPHL|FAGA)について。原因と予防、対策・治療法を紹介【医師監修】

 女性の薄毛の総称である女性型脱毛症(female pattern hair loss, 以下FPHL)は未だ認知されておらず、男性型脱毛症(AGA)と比べるとまだまだ情報も少ないため、どのような治療法があり、どこに相談をすれば良いか迷われている方も多いのではないでしょうか。 そこで、今回は女性の薄毛について、その原因や予防、対策・治療等をご紹介させて頂きます。

FPHLの原因

 FPHL(女性型脱毛症)の薄毛や脱毛の原因は、AGA(男性型脱毛症)に比べると、未だはっきりとは分かっておらず、様々な要因が相互に影響を及ぼしている可能性があります。FPHLは以下のような要因に関連しているとされていますが、これらの要因は個々の患者によって異なる可能性があります。

遺伝的要因

 血縁の女性の方にFPHLの方が多ければ、FPHLの発症リスクが高まります。

ホルモンバランスの変化

 女性ホルモンであるエストロゲンが低下して、男性ホルモンであるアンドロゲンとのバランスが崩れることが、FPHLの発症に関連していると考えられています。更年期や出産後などのホルモンの変化がFPHLの発症を促すことがございます。こちらのホルモンバランスによる脱毛をFAGA(female androgenetic alopecia)と呼ぶことがあります。

生活習慣

 喫煙、過度のストレス、栄養不足(例えば過度なダイエットによる鉄欠乏や亜鉛欠乏、ビタミンD不足など)、睡眠不足等の生活習慣がFPHLの原因となる可能性があります。

内科的疾患

 膠原病などの自己免疫疾患や甲状腺機能低下症などの内分泌疾患がFPHLの要因となる場合があります。免疫システムが毛包や毛乳頭を攻撃してしまったり、内分泌疾患によりホルモンバランスが崩れてしまうなどで、脱毛を引き起こしてしまう可能性があります。

髪型

 牽引性脱毛症といって、髪をきつく長時間束ねることによって頭皮の血流が悪くなってしまい、牽引されていた部分が脱毛して薄くなってしまうこともあります。(ポニーテールや編み込み、エクステなど)

FPHLの予防

 FPHLを予防する為に、効果的とされているアプローチがいくつかあります。ここでは代表的な例を挙げさせて頂きます。

睡眠

 睡眠は髪の毛にとってとても重要な役割を担っています。髪の成長には成長ホルモンが関わっていますが、この成長ホルモンは睡眠中に分泌されています。つまり、睡眠時間が不十分(睡眠不足)になるほど成長ホルモンがうまく分泌されず、髪の毛にとって悪影響を与えてしまいます。
 なお、この成長ホルモンは22時~2時頃に多く分泌されると言われていますので、この時間には十分な睡眠が得られるよう、早めの就寝を意識された方が良いかと思います。

ストレス管理

 ストレスは多様な健康問題を引き起こす可能性があるため、ストレスを極力抑えた日常生活を送れるよう意識しましょう。ストレスは、体内のホルモンバランスの乱れ、免疫機能の低下、生活習慣の乱れ、その他様々な問題を引き起こす可能性があり、それらが髪の毛にも悪影響を及ぼす事がございますので、ご自身に合った方法を見付けて日々のストレスを軽減するよう心掛けておきましょう。

食生活

 栄養不足は髪の毛にとっても深刻なダメージを与えてしまう可能性がございますので注意が必要です。タンパク質、ミネラル(亜鉛、鉄など)、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンE、ビタミンDなど)などは髪にも良いとされていますので、意識してバランスよく摂取できるよう心掛けましょう。
 具体的には、緑黄色野菜(ほうれんそう、にんじん、ピーマン、トマトなど)、肉(脂質の少ない牛肉、鶏肉)、魚(サーモンやサバなど、脂質の多い魚)、卵や乳製品などがこれらの栄養素を豊富に含んでいますので、日々のお食事に取り入れてみてください。

ヘアケア、頭皮ケア

 育毛剤を使用する事によって抜け毛の進行を遅らせたり、髪の毛を少し太くしたりといった効果が期待できます。効果には個人差はありますが、育毛剤類を使用する事で薄毛の体質自体が劇的に改善されるということではありませんので、過度な期待は控えておきましょう。また、頭皮マッサージで血流を良くすることで、抜け毛を予防する効果も期待できます。指の腹を頭皮に押し付け、頭蓋骨に沿って頭皮を上下左右に動かすようマッサージしましょう。リラクゼーション効果によるストレスの軽減も期待できます。なお、過度な洗髪や強い摩擦、牽引は髪を傷つけ、抜け毛を引き起こし、かえって薄毛に繋がってしまう可能性がありますので、適度なケアを心掛けてください。

FPHLの対策・治療法

 FPHLの対策・治療法として、幾つか代表的な例を挙げると以下のようになります。

医薬品

 現在、女性の薄毛に対して効果が認められている薄毛治療薬はミノキシジル外用薬のみとなっており、男性に比べると薬が少ない状況です。因みに、ミノキシジル外用薬は女性用は1~2%、男性用が5%と同じミノキシジル外用薬でもそれぞれに濃度が異なります。なお、アメリカでは男性と同じ5%ミノキシジル外用薬が女性用として承認されています。
 ミノキシジル外用薬の他に男性のAGA治療としては、男性ホルモンであるジヒドロテストステロン(DHT)が毛根に作用するのをブロックするフィナステリド、デュタステリド等の内服薬がございますが、こちらは臨床試験で女性に対する効果が認められなかったことから、女性への適応はありません。つまり、現状女性が使用できる薄毛の治療薬はミノキシジル外用薬のみとなっております。

自毛植毛

 治療薬(ミノキシジルの外用薬)で効果が得られなかった場合には、自毛植毛が選択肢のひとつとなってきます。手術のおおまかな流れは女性に対する自毛植毛も男性のものと同じですが、細かい手技やデザイン、使用する薬剤濃度などに違いがございます。
 因みに、日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版」において、女性型脱毛症への植毛はC1評価となっており、「女性型脱毛症には自毛植毛術を行ってもよい。」となっています。
 FPHLの場合、男性のように頭頂部や前頭部の局所から集中的に薄毛が進行するというよりは、全体的に髪の毛が細くなって頭皮に透け感が出てくるパターンが多いため、移植株をどのように配分していくかという移植プランが重要となってきます。自毛植毛は自身の髪の毛を採取して気になる部分に移植する為、移植できる株数には限りがあります。その為、広い範囲全体に高い密度で植毛するとなると、必要な株数が多くなりすぎてしまう場合があるため、医療機関へご相談の際に、どのような髪型をすることが多いのか、一番気にされている部分はどこなのか、などをじっくり話し合い、ご希望に応じたデザインを作成していきます。
 女性に対する自毛植毛でも、男性に対する自毛植毛同様にドナー(移植株)の採取方法はFUT法とFUE法を選ぶことができます。FUT法の場合は採取するドナー範囲のみバリカンを入れて採取後に縫い合わせるため、術後のバリカン幅はほぼ残りません(ドナー範囲である後頭部に、横に走る線状の縫合痕は残りますが、髪で隠す事ができます)。FUEの場合はドナーを採取する範囲全体にバリカンを入れて縫合をしない為、FUTよりも広い刈り上げ範囲(バリカン幅)が残り、取得株数が多いほどその幅は広くなります。術後は髪が生え揃うまで部分ウィッグなどで対応されることが多いようです。刈り上げない方法(所謂ノンシェービング)を採用している医療機関もございますが、費用はより高額になる傾向があります。興味のある方は対応医療機関のホームページなどでご確認ください。

その他

 FPHLに対する治療としては、その他LED/低出力レーザー治療などがガイドラインに挙げられていますので、興味のある方はご確認ください。

手術痕に対する自毛植毛

 FAGA以外にも女性で自毛植毛手術を受けられる方がおり、その理由として多いものが手術痕です。具体的な例としてはフェイスリフトなどの手術後に、生え際付近の髪の毛が抜けてしまい、その部分だけが無毛部になってしまう場合があります。また脳神経外科の手術跡なども無毛部が出来てしまうことがあります。
 手術跡の部分は毛根自体がなくなってしまっているため、治療薬をはじめとするその他治療は適応がなく、自毛植毛の適応となります。基本的にこの様なケースでは、移植範囲がそれほど広いわけではないので、移植する株数も少なくて済みます。

まとめ

 女性の薄毛は、まだまだ男性の薄毛に比べると社会的に認知されているとは言い難いところがあり、その治療法に関しても男性のそれに比べて情報がなかなか得にくいのが現状です。少しでもお役に立てればとこちらの記事を作成しました。ひとつの参考になりましたら幸いです。FAGAを始めとするFPHLの治療として、治療薬の効果がいまいち感じられない場合は、自毛植毛は1つの選択肢となります。またFAGA以外でも、手術痕や火傷、抜毛症などによる無毛部にも自毛植毛は効果があります。当院では女性からのご相談も多く頂いており、その自毛植毛も多く経験しておりますので、悩まれている方は是非一度お気軽にご相談していただければと思います。

AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太