植毛を行うときにFUT法とFUE法のどちらを最初に行うべきか【医師監修】

植毛(自毛植毛)は薄毛に悩む多くの人々にとって、見た目の改善だけでなく、自信や生活の質を向上させる重要な治療手段のひとつです。特にAGAによる進行性の薄毛の場合、手術により薄毛が改善した後に症状が進行してしまい、また薄毛が気になってくることがあり、その結果複数回の手術を希望される方も少なくはありません。そこで悩むのが、どの植毛手法を最初に選択するかという点です。主な植毛手法であるFUT法(Follicular Unit Transplantation)とFUE法(Follicular Unit Extraction)には、それぞれの特性とメリット・デメリット等があり、どちらを最初に行うかで将来の植毛の選択肢や効果に大きな影響を与える場合があります。個人の状況や希望などによって違いはありますが、このコラムでは、複数回の植毛を想定した場合、最大限にドナー(移植毛)を活用できるのは、どのような順序なのかについて、FUT法とFUE法の特徴を比較しながら考察していきます。FUT法とFUE法の両方を実際に長年手術してきた当院の見解として、一つの参考になりましたら幸いです。
- 1. FUT法の特徴とメリット・デメリット
- 1.1. メリット
- 1.2. デメリット
- 1.3. その他の留意点
- 2. FUE法の特徴とメリット・デメリット
- 2.1. メリット
- 2.2. デメリット
- 2.3. その他の留意点
- 3. FUT法とFUE法の順序についての見解
- 3.1. FUT法を先に行うべき理由(最大限にドナーを活用する場合)
- 3.1.1. ドナーエリアは限られた範囲
- 3.1.2. FUE法 → FUT法の場合
- 3.1.3. FUT法 → FUE法の場合
- 4. 2回目、3回目の植毛を見据えた長期的な戦略
- 4.1. 効率的なドナー採取
- 4.2. 将来の薄毛進行への対応策
- 5. クリニック選びのポイント
- 5.1. 選び方のポイント
- 6. まとめ
FUT法の特徴とメリット・デメリット
まずは、FUT法について、簡単に紹介させて頂きます。FUT法(Follicular Unit Transplantation)は、主に大量のドナーを必要とする植毛に向いている方法です。ドナーエリア(後頭部や側頭部)からストリップ(帯状にした頭皮の組織)を切り取り、そこから毛包単位に移植する株を切り分けてから植毛する手法で、FUSS(Follicular Unit Strip Surgery:ストリップ法)と呼ばれることもあります。FUE法よりも以前からあり、現在でも採用されている確立された植毛方法です。
メリット
- 生涯に採取出来るドナー株数が多い(約5,000~7,000株程度)
- 高い有効採取率(双眼実体顕微鏡を使って手作業で切り分け)
- コスト(FUE法よりも安いことが多いです)
- 狭いバリカン幅(手術後に残るバリカン幅は、縫合部の上下5mmくらい、合計1cm程度のバリカン幅)
デメリット
- メスで頭皮を切る手術である(人によっては心理的なハードルが高いと感じる方がいらっしゃいます)
- 後頭部に横に走る細い線状の縫合痕が1本残る(髪を伸ばす事で隠せます)
- 頭皮の硬い方は採取できるドナー株数が限られる
- 採取予定の株数から実際の株数が上下する(帯状にドナーを塊として採取して、取ってから株分けして数を数えるので、例えば1500株採取を予定した場合でも、「ちょうど1500株採れる」ということはまずありません。若干の誤差があります)
その他の留意点
- ドナー採取して縫合した痕は、基本的には1本の線状痕だが、植毛回数によっては2本になったり傷痕が広がる可能性がある
- ドナー採取後の縫合の際にトリコフィティック縫合法を用いたり、FUEで傷修正を行う事によって、縫合痕を目立ち難くする事ができる
- 体質によっては傷痕が太く治ることがある
FUT法のメリット・デメリットについては「FUT植毛とFUE植毛どちらが良いのか【医師監修】」も併せて参照ください。
FUE法の特徴とメリット・デメリット
続いてFUE法について、簡単に紹介させて頂きます。FUE法(Follicular Unit Extraction)は、眉毛、ヒゲや傷痕など、比較的少量のドナー株で充分な植毛に向いている方法です。また、頭皮が硬くて可動性が少ない方や、それ以前に施行したFUTの縫合痕を修正したい場合にもFUEは適した方法です。
メリット
- 傷跡が目立ちにくい(ひとつの傷痕は約1mm前後のサイズの白い斑点状の傷。ただし採取し過ぎると髪の密度低下に繋がり大きなデメリットとなります)
- 頭皮が硬く可動性が少ない方でも採取可能
- 手術後の回復期間が比較的短い
デメリット
- 生涯に採取できるドナー株数はFUTの約半分(約2,000~3,000株程度)
- 有効採取率は医師の経験や技量に左右される
- コスト、手術時間(FUTよりも高いことが多く、また株数の多い手術の場合は手術時間が長い傾向があります)
- 広いバリカン幅(採取する部分を広くバリカンで刈る必要がある。刈らない方法を採用する所もありますが、費用が高額になる傾向があります)
その他の留意点
- ドナー採取しすぎると、採取部の密度が低くなり、スカスカになってしまう(結果、傷痕も目立つ)
- 採取数が過多だと、通常のドナー採取範囲を超えて採取されてしまう(通常はAGAの影響を受けにくい部分からのみドナー採取するが、それで必要な株数がまかなえない場合は他の部分からドナー採取されることがある)
- 技術不足だと毛根切断率が上がり有効採取率が下がってしまったり、傷同士が繋がってしまう場合がある
FUE法のメリット・デメリットについては「FUT植毛とFUE植毛どちらが良いのか【医師監修】」も併せて参照ください。
FUT法とFUE法の順序についての見解
それでは、本コラムの本題となる、植毛を行うときに、FUT法・FUE法のどちらを最初に行うべきかについて考えていきましょう。拍子抜けしてしまう結論で恐縮ですが、結論としては、ご希望やご状況などの「ケースによる」が答えになります。またそもそも、あえて両方の術式を併用する必要があることは少ないです(限界まで株を採取したい、という強い希望を持つ方は少ない)。それでも、最大限にドナーを活用する場合には、「まずはFUT法で可能な限りドナーを採取してから、FUE法で可能な限り採取する」が良いのではないかと考えます。クリニックによっては、違う見解もあるかもしれませんが、FUT法とFUE法の両方を長年行っている当院としては、そのような見解となります。
FUT法を先に行うべき理由(最大限にドナーを活用する場合)
ドナーエリアは限られた範囲
植毛におけるドナーエリア(後頭部から側頭部にかけての、移植毛を採取する範囲)は比較的狭い範囲です。その狭い範囲から限りある資源(移植株)を効率的に採取し、最大限に有効活用することが、効果的な植毛へと繋がります。
FUT法では後頭部の皮膚を帯状に切り取り、そこから毛包を顕微鏡を使いながら手作業で分離して採取します。この方法では、ドナーエリアの限られた範囲から集中的に多くの毛包を効率的に採取することができます。切り取った部分は縫合されるためそこに横に走る線状の傷が残りますが、他の部分の髪の密度は変わりません。これにより、後の手術でFUE法を行う際にもドナーエリアを十分に残すことが可能です。
一方、FUE法ではドナーエリア全体から間引く形で毛包を一つずつ個別に採取するため、点状の傷跡が広範囲に広がり、ドナーエリア全体の密度が採取した分だけ低下していきます。特に初回の手術で大量のドナーを採取する場合、ドナーエリアの毛の密度が著しく低下し、不自然な見た目になるリスクが高まります。さらにFUE法の後には多くの場合、FUT法で切り取るエリアからも移植毛が採取されている為、そこの密度が低下しています。そのためもし将来FUT法を行う場合は、FUE法を行っていない人に比べて採取できる移植毛の数が少ない状態になっているという事になり、生涯に採取出来る株数(FUT法では通常5000~7000株)が少なくなる可能性があります。
FUE法 → FUT法の場合
例えば最初にFUE法で2000株採取した場合、ドナーエリアの密度は20~25%くらい低下していることが多いです。そこから2回目にFUT法で採取すると、通常であれば2000株くらい採れるところが1500株くらいに低下します(特にFUT法で採取するドナーエリアの真ん中は、より多く抜かれていることが多く、実際には1000株ちょっとしか採れないことが多いです)。続いて3回目にFUT法を行う場合は、さらに採取できる株数が落ち、500~1000株くらいしか採れない形となります。このように、FUE法を先行して行った場合は後にFUT法で採取できる株数が落ちてしまい、通常FUT法のみで採取可能な上限を下回ってしまうケースが多くなります。
FUT法 → FUE法の場合
逆にFUT法を先行して行った場合は、まずFUT法のみで5000~7000株ほど採取可能です。そこからFUE法を追加で行うことで、さらに500~株くらい追加で採取することができ、結果的に多くの株を移植することが可能となります。ただし、FUT法で5000~7000株採取した場合はおそらく後頭部に2本以上の傷痕が残っていることとなり、FUE法で抜きすぎるとそれらの傷が露出してしまうリスクがあるので、最後のFUE法では無理しすぎないことが肝要となります。
以上のように、FUT法を先に行うことで、ドナーエリアの資源を効率的に利用し、密度の低下を最小限に抑えて、後の手術にも備えることができるのです。これにより、最終的により多くの毛包を有効活用できる可能性が高くなります。
つまり、FUT法で最大限に採取した後(生涯に約5,000~7,000株程度)にFUE法で可能な範囲で採取するという方法が、最大限にドナーを活用する方法となるかと思います。
2回目、3回目の植毛を見据えた長期的な戦略
複数回の植毛を視野に入れる場合に重要なのは、いかに効率的にドナーを採取するか、です。ドナーエリアは限られた資源であり、効果的に利用することで、将来の植毛の満足度が大きく向上します。無理をしない植毛をするためにも、まずはFUT法とFUE法の両方を取り扱っているクリニックで相談をする事をお勧めします。
効率的なドナー採取
- FUT法でドナーを効率的に使用することにより、2回目以降の植毛(FUT法・FUE法)で残りのドナーエリアを活用する余地を残す事ができます。
- 頭皮の固さや密度など、個人によっても違いがあるため、専門医と相談し、最適な方法でドナーエリアを使用する計画を立てることが重要です。
将来の薄毛進行への対応策
- 複数回の植毛を計画する際には、頭皮の状態や薄毛の進行度を考慮しながら、専門医の診断を受けることが推奨されます。
- 薄毛の進行を遅らせるための予防策として、生活習慣の改善やAGA治療薬も並行して行うと、さらに毛髪の維持が期待できます。
クリニック選びのポイント
もし将来を見据えて最大限にドナーを活用していきたいとお考えの際には、FUT法を選択肢として考慮する事が不可欠です。そのためには、FUT法に対応できる技術力と経験が豊富なクリニックを選択する必要があります。可能であればFUT法とFUE法の両方に精通しているクリニックに相談して、それぞれの方法の説明を偏りなく受けることで、ご希望や頭皮の状態に合わせた選択肢が広がって無理のない植毛が可能になります。最終的にFUE法での植毛を選択するとしても、植毛を検討の際は、FUT法とFUE法の両方に精通しているクリニックを含めて、極力複数のクリニックで話を聞いてみる事をお勧めします。
選び方のポイント
- 植毛の高い技術と経験を持つ医師と看護師の両方が在籍しているクリニック
- FUT法とFUE法の両方に対応が出来る(ドナーエリアの管理を両方の視点で考える事ができます)
- 十分な実績がある(専門院かどうか、何年続いているか、リピーターはいるのかなど)
- 費用が分かり易い(隠れた費用や安価な費用には条件がないか、オプションはないかなど)
- 術後のアフターケアを行っている(担当医や看護師に相談が可能か、無料でどこまで可能か)
クリニック選びのポイントにつきましてはこちらの「おすすめの植毛クリニックとは?【医師監修】」を併せて参照ください。
まとめ
FUT法とFUE法の順序は、将来的な薄毛の進行や植毛の計画に大きな影響を与える重要な選択です。より多くのドナーを効果的に活用していきたい場合は、まずFUT法で可能な限りドナーを採取した後、FUE法で可能な限り行う事で、ドナーエリアの密度を保ちながら効果的にドナーを採取できます。FUE法を先に行うと、ドナーエリアの密度が下がり、FUT法を行う際にその効果が減衰してしまうリスクがあるため、もし最大限にドナーを活用したいと考えるのであれば、FUT法から始めることが推奨されます。信頼できるクリニックと共に、将来の薄毛進行を見据えた最適な植毛計画を医師と一緒になって立てることが、満足のいく結果を得るための鍵となります。
1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院として、FUT法とFUE法の実績を持つ紀尾井町クリニックでは、FUT法・FUE法それぞれのメリット・デメリット、副作用、リスク等を、経験豊富な医師が実際の経験に基いて説明させて頂き、直接お悩みを承った上で、一緒に薄毛治療プランを考えております。FUT法にも対応している為、将来を見越した植毛計画に広く対応する事ができます。AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。
監修医師プロフィール
東邦大学医学部医学科卒業後、同大学附属病院泌尿器科に入局し、以降10年以上に渡り手術加療を中心に臨床に従事。男性型脱毛症(AGA)にも関連するアンドロロジー(男性学)の臨床に関わる。2021年より紀尾井町クリニックにて、自毛植毛を中心に薬物治療を組み合わせてAGA治療を行っている。著書として『薄毛の治し方』(現代書林社)を上梓。(詳細プロフィールはこちら)
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 会員
医師 中島 陽太
