AGA(男性型脱毛症)による薄毛は遺伝するのか?【医師監修】

AGA(男性型脱毛症)による薄毛は遺伝するのか?

 AGA(男性型脱毛症)の要因は様々ありますが、遺伝的要因はその中でも大きな要因となります。しかし、薄毛の遺伝についての理解はまだ完全ではなく、多くの人々がそのメカニズムやリスクについて誤解していることもあります。本コラムでは、薄毛の遺伝に関する情報を整理し、薄毛と遺伝の関係を紹介していきます。

薄毛の種類

 薄毛には様々な原因、種類がありますが、最も一般的なのはAGAとFPHL/FAGAです。これらは遺伝的要因が関与することが多く、それぞれに特徴的な脱毛パターンがあります。

AGA(男性型脱毛症)

 AGAは、男性ホルモン(アンドロゲンに依存する脱毛症で、主に頭頂部と前頭部(若しくはその両方)の毛髪が薄くなります。日本の成人男性の薄毛の多くがAGAが原因とされ、その発生には遺伝的要因が強く関係しています。遺伝的に感受性が高い人は、ジヒドロテストステロン(DHT)の影響を受けやすくなり、毛包が縮小していき毛髪が細く短くなっていきます。詳細に興味のある方は「AGA(男性型脱毛症)とは?原因と予防、対策・治療法を紹介」をご参照下さい。

FPHL/FAGA(女性型脱毛症)

 FPHL(female pattern hair loss)は、女性に見られる脱毛症で、局所的に薄くなるというよりは、広い範囲で髪が徐々に薄くなるのが特徴です。AGAと同様に、遺伝的要因の関与も示唆されていますが、男性に比べると遺伝的要因の影響は小さいようです。女性ホルモン(エストロゲンのバランスによる薄毛をFAGAといい、男性とは異なるパターンを示します。閉経後にホルモンバランスが変化することで、FAGAが進行することが多いです。詳細に興味のある方は「女性の薄毛(FPHL|FAGA)について。原因と予防、対策・治療法を紹介」をご参照下さい。

遺伝的要因の役割

 AGAの発症には多くの遺伝子が関与していると考えられており、その中でも特に重要なのがアンドロゲン受容体(AR)遺伝子5α還元酵素です。

アンドロゲン受容体(AR)遺伝子

 アンドロゲン受容体(AR)遺伝子は、男性ホルモンであるアンドロゲンに反応する受容体タンパク質をコードする遺伝子です。アンドロゲン受容体は、テストステロンジヒドロテストステロン(DHT)と結合し、細胞内で特定の遺伝子の発現を調節します。このプロセスは、男性の性特徴の発現や維持、生殖機能の発達に不可欠です。しかし、AR遺伝子の変異や多型(異なる遺伝子バリアント)は、さまざまな健康問題と関連しています。たとえば、アンドロゲン受容体がDHTに対して過敏である場合、毛包が影響を受けやすくなり、その結果、毛周期が短くなり、太く成長する前に抜けて産毛になるパターンを繰り返しながら毛包が縮小し、AGAが進行しやすくなります。逆に、アンドロゲン受容体の機能が失われると、完全型アンドロゲン不応症のような病状が発生し、男性の性発達に深刻な影響を与えることがあります。さらに、アンドロゲン受容体は前立腺がんの発症や進行とも深く関連しており、この受容体の異常ががんの進行を促進する要因となることが明らかになっています。このように、アンドロゲン受容体は性ホルモンの作用を媒介するだけでなく、さまざまな疾患の発症においても重要な役割を果たしています。このアンドロゲン受容体の性質に関与するのがAR遺伝子なのです。

5α還元酵素

 5α還元酵素には、男性ホルモンであるテストステロンを、より活性が高くAGAの原因となるジヒドロテストステロン(DHT)に変換する役割があります。5α還元酵素には複数のサブタイプが存在しますが、主にタイプ2をコードするのがSRD5A2遺伝子で、この遺伝子の変異によりDHTの酵素活性や発現量の違いが生じます。代表的なものとしてV89Lバリアントが知られており、これは5α還元酵素の酵素活性に負の影響と与えることから、DHTの産生が抑えられ、AGA/FAGAの発現が抑制される方向に働きます。また、別のSRD5A1遺伝子も、頭皮特異的な発現を担い、そのプロモーター領域のバリアントが頭皮における5α還元酵素の発現量を左右し得ると考えられています。さらに、プロモーターやエンハンサー領域の変異に加え、DNAメチル化などのエピジェネティックな制御もSRD5A遺伝子の転写に影響を与え、局所的な酵素活性の個人差を生み出します。これらの遺伝的要因により、同じテストステロン濃度でもDHTへの変換効率や毛包への影響度が異なり、AGAの進行度や治療反応に差が生じると考えられます。加えて、集団間で多型の頻度が変わるため、人種や民族によってAGA感受性に違いが見られる場合もあります。

その他の遺伝子

 AGAの発症にはAR遺伝子や5α還元酵素以外にも多くの遺伝子が関与していると考えられています。今後の研究により、毛包の成長サイクル、炎症反応、ホルモンバランスなどに影響を与える多くの遺伝子がAGAに関与する原因遺伝子として発見されていくものと考えられます。

遺伝のパターン

 薄毛の遺伝について考える際には、遺伝のパターンを理解することが重要です。遺伝子は親から子へと受け継がれていきますが、その受け継ぎ方にはいくつかのパターンがあります。

優性遺伝と劣性遺伝

 遺伝子には優性(顕性)と劣性(潜性)の特性があります。優性遺伝子(顕性遺伝子ともいう)は、1つのコピーが存在するだけで特徴を発現させますが、劣性遺伝子(潜性遺伝子ともいう)は2つのコピーが存在する場合にのみ特徴を発現させます。AGAの遺伝は複雑で、単純な優性・劣性遺伝のパターンには当てはまりませんが、家族内での発症率が高いことから、多因子遺伝と考えられています。

多因子遺伝

 多因子遺伝は、複数の遺伝子変化及び環境因子が組み合わさって発現します。AGAの発症には、多くの遺伝子が関与し、その組み合わせによってリスクが決まります。また、環境要因も重要な役割を果たし、遺伝的なリスクが高い人でも、適切な生活習慣やケアによって薄毛の進行を遅らせたりすることが期待できます。

AR遺伝子の遺伝の仕組み

 AR遺伝子はX染色体に位置しており、アンドロゲン受容体をコードしています。アンドロゲン受容体は、男性ホルモンであるアンドロゲンと結合して機能し、男性の性特徴や髪の成長などを調節します。この遺伝子の変異がAGAに関与しています。AR遺伝子がアンドロゲンやDHTに対する感受性を高めると、頭髪の毛周期が短くなっていき、毛包のミニチュア化(産毛化)が進み、薄毛が促進されます。

性染色体連鎖遺伝のメカニズム

 AR遺伝子はX染色体上に位置しており、AGA発現に関しては性染色体劣性遺伝のパターンを示します。性染色体は男女で異なり、男性はX染色体とY染色体(XY)、女性は2本のX染色体(XX)を持っています。この違いが、AR遺伝子の遺伝の仕組みにおいて重要な役割を果たします。

男性における遺伝の仕組み

 男性は母親からX染色体を、父親からY染色体を受け継ぎます。したがって、男性にとってはX染色体が1本しかないため、変異したAR遺伝子が存在する場合、その影響を直接受けることになります。母親が変異したAR遺伝子を持っていると、50%の確率でその変異を息子に伝えます。息子がこの変異を受け継ぐと、アンドロゲン受容体の感受性が高まり、AGAを発症するリスクが高くなります。

女性における遺伝の仕組み

 上述の通り、FAGAの発現に関するAR遺伝子の発現パターンは性染色体劣性遺伝です。AR女性は2本のX染色体を持っているため、一方のX染色体に変異があっても、もう一方のX染色体に変異がなければ発現パターンは「変異なし」ということになります。そのため、女性は変異の保因者となる可能性はあるものの、発症リスクは男性に比べて低くなります。母親が変異したAR遺伝子を持っていると、50%の確率でその変異を娘に伝えます。娘がこの変異を受け継いでも、もう一方の父親由来のX染色体に変異がなければ、通常はFAGAを発症リスクは低くなります。ただし、保因者として次世代に変異を伝える可能性はあります。

父親からの遺伝

 父親が変異したAR遺伝子を持っている場合、その影響は性染色体の構成によって異なります。父親はY染色体を息子に、X染色体を娘に伝えます。父親が変異したAR遺伝子を持っていると、全ての娘にその変異が伝わります。娘は2本のX染色体を持っているため、一方が変異していても、母親由来のものに変異がなければFAGAを発症しませんが、保因者となります。一方、息子には父親のY染色体が伝わるため、父親の変異は息子に伝わりません。よく言われている「薄毛は母系遺伝」や、「薄毛は隔世遺伝」という話の根拠はこの辺りから来ていると推察されます。

 最初に記した通り、AGAの発現は多因子遺伝(様々な遺伝子の影響が複合的に絡み、さらに環境因子にも影響を受ける)です。AR遺伝子はAGA発現に大きな影響を与えるものですが、「AR遺伝子のみ」がAGAの発現の全面的にコントロールするわけではないことに留意してください。

遺伝子検査とリスク評価

 遺伝子検査によって、薄毛のリスクを事前にある程度評価することが可能となり、早期の対策が取れるようになります。主にAR(アンドロゲン受容体)遺伝子などの特定の遺伝子の変異を調べることで、AGAの発症リスクを評価します。検査の詳細や方法などは提供するクリニックや機関によって異なりますが、費用は数万円かかる事が多いようです。

遺伝子検査の方法

 遺伝子検査は、主に髪の毛、唾液や血液からDNAを抽出し、特定の遺伝子マーカーを分析することで行われます。AGAに関連する遺伝子を調べる検査は、クリニックやオンライン購入で提供されており、結果を基に医師と相談して適切な治療法を決定することができます。

遺伝子検査の利点

 遺伝子検査の利点は、個々のリスクを把握し、早期に適切な対策を講じることができる点にあります。例えば、遺伝子検査で高リスクと判定された場合、予防的な治療やライフスタイルの改善を早期に始めることで、薄毛の進行を遅らせることが期待できます。

遺伝子検査の限界

 一方で、遺伝子検査には限界もあります。遺伝子検査で特定のリスクを評価できるものの、薄毛の発症には環境要因やライフスタイルも大きく影響します。そのため、遺伝子検査だけで薄毛の進行を完全に予測することは難しいです。また、遺伝子検査の結果に基づき「薬の効きやすさ」を判断することもできますが、実際にどの程度薬が効くか/効かないかは、結局のところ薬を使ってみないと分かりません「薬が効きやすい」という遺伝子検査結果の方が、実際に使ってみたらあまり効かなかった、ということもあれば、逆もまた然りです。自身の傾向を数値としてみたい方や、今は全く問題ないが将来の為にAGAリスクを参考までに知っておきたいという方は、取り扱っているクリニックに相談して話を聞いた上で、ご利用を検討されてみても良いかもしれません。

環境要因とライフスタイルの影響

 薄毛の遺伝的リスクが高い人でも、環境要因やライフスタイルによって薄毛の進行を抑えることが期待できます。以下に、薄毛の進行に影響を与える主な環境要因とライフスタイルの改善方法を紹介します。

ストレスの管理

 ストレスによるホルモンバランスの乱れや血管収縮によって、毛髪の成長サイクルに悪影響を与えてしまうことがあります。これにより、毛包の健康が損なわれ、薄毛が進行することがあります。ストレス管理のためには、適度な運動、リラクゼーション法(例えば瞑想や深呼吸)、趣味等、自身に合ったストレス解消法や、十分な睡眠が効果的です。

栄養状態の改善

 栄養不足や偏った食事は、毛髪の健康に悪影響を及ぼします。特に、タンパク質、鉄分、亜鉛、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEなどの不足は、毛髪の成長を妨げる原因となります。バランスの取れた食事を心がけ、必要に応じてサプリメントで補完するなどして栄養を摂取することで、毛髪の健康を維持することが期待できます。

頭皮ケア

 頭皮の健康は、毛髪の成長に直接影響を与えます。頭皮を清潔に保ち、適度なマッサージを行うことで血行を促進し、毛包への栄養供給を改善することができます。適切なシャンプーやコンディショナーを使用し、頭皮の乾燥や過剰な油分を防ぐことも重要です。

遺伝による薄毛の治療法

医師の診断

 AGAによる薄毛の治療を行う際は、まず専門の医師の診断を受けて頂く事をおすすめいたします。AGA以外の原因でも薄毛が起こることもございますし、ご自身の状態やご希望に合わせた治療をより幅広い選択肢において実施していくためにも、AGA治療の豊富な経験を持つ専門医へご相談をされるとよろしいかと思います。

医薬品

 AGA治療薬による治療は、AGA治療の中でも比較的取り組みやすい治療法です。代表的なものとしては下記の薬剤があり、いずれも医学的に効果が認められているAGA治療薬で「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」においても推奨されているAGA治療薬となります。但し、男性には推奨するが女性には推奨しない、使用条件が異なる等、男女において違いがございますので、ご使用の際には注意が必要です。

ミノキシジル(外用/内服)

 ミノキシジルは塗布した頭皮の血管拡張作用によって、毛乳頭細胞へより多くの栄養素や酸素を運んで、抜け毛を減らしたり、薄毛の進行を遅らせる効果が期待できます。ドラッグストアなどでも広く市販されているAGA治療薬で、男性のみならず女性の薄毛に対しても効果が期待できます。なお、男性用が5%、女性用は1~2%と、同じ成分でも男女で濃度が異なりますのでご注意ください。

フィナステリド(内服)

 男性ホルモンであるテストステロンが、AGAの原因となるジヒドロテストステロン(DHT)へと転換するのを阻害(5α還元酵素Ⅱ型を抑制)することによって、AGAの症状を改善する効果が期待できます。もともとは前立腺肥大症の治療薬でしたが、副作用として毛が濃くなることからAGA治療薬として使用されるようになりました。なお、フィナステリドは医師の診察が必要なAGA治療薬で、未成年や女性に対する適応はございません。

デュタステリド(内服)

 フィナステリド同様、男性ホルモンであるテストステロンがAGAの原因となるジヒドロテストステロン(DHT)へと変わる際に必要な5α還元酵素を抑制して、AGAの改善が期待できるAGA治療薬です。フィナステリドが5α還元酵素Ⅱ型のみを抑制するのに対して、デュタステリドは5α還元酵素Ⅰ型とⅡ型を抑制するため、より高い効果が期待できます。こちらも、医師の診察が必要なAGA治療薬で、未成年や女性に対する適応はございません。

植毛(自毛植毛)

 AGA治療薬による治療で効果が感じられない場合は、植毛手術(自毛植毛)という治療法の選択肢がございます。自毛植毛は、自身のAGAの影響を受けにくい髪の毛を薄毛の部位に移植する医療技術で、移植毛が定着した後は、自身の他の髪の毛同様の管理で済み、永続的な効果が期待できます。また、メンテナンスや買い替えなどの追加費用が発生しません。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」においては、男性型脱毛症は推奨度B(行うよう勧める)、女性型脱毛症は推奨度C1(行ってもよい)となっているAGA・薄毛の治療法です。
 ちなみに、植毛というと、人工毛植毛を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、人工毛植毛は推奨度D(行うべきではない)とされているため、現在は植毛といえば自毛植毛手術を指す場合がほとんどです。

その他

 その他のAGAの治療法としては、かつらの着用やLEDおよび低出力レーザー照射、成長因子導入および細胞移植療法など様々なものがございます。詳細は日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」にてご確認を頂けますので、興味がございましたらご参照下さい。

まとめ

 薄毛(ハゲ)と遺伝は大きく関係しています。特に、AGAは遺伝的要因が強く関与しています。AGAは、主にアンドロゲン受容体(AR)遺伝子の変異が関係しており、この遺伝子は母方から遺伝します。しかし、AR遺伝子以外にも薄毛に影響を与えるような遺伝子を父親や母親のどちらからも遺伝する可能性があり、両親の家系に薄毛の傾向がある場合、そのリスクが高まります。ただし、遺伝だけが薄毛の原因ではなく、ストレス、生活習慣、ホルモンバランス、栄養状態などの環境要因も影響を与えます。これらの要因が組み合わさることで、薄毛の進行が早まることがあります。
 1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックは、国内で数少ないFUTとFUEの両方に対応できるクリニックです。経験豊富な医師が直接相談を承った上で、お悩みに寄り添って一緒に薄毛治療プランを考えております。AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。

監修医師プロフィール

東邦大学医学部医学科卒業後、同大学附属病院泌尿器科に入局し、以降10年以上に渡り手術加療を中心に臨床に従事。男性型脱毛症(AGA)にも関連するアンドロロジー(男性学)の臨床に関わる。2021年より紀尾井町クリニックにて、自毛植毛を中心に薬物治療を組み合わせてAGA治療を行っている。著書として『薄毛の治し方』(現代書林社)を上梓。(詳細プロフィールはこちら

AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 会員
医師 中島 陽太

記事監修 中島医師