ストレスと薄毛(はげ)の関係【医師監修】
現代社会において、殆どの方にとってストレスは避けて通れないものとなっています。仕事、家庭、人間関係、将来への不安、社会的なプレッシャーなど、様々な要因が私たちの精神的な健康に影響を及ぼします。私達にとってストレスは心身の健康面で色々な問題を引き起こす可能性がありますが、その中の一つに薄毛(はげ)があります。本記事では、ストレスと薄毛の関係について詳しく解説していきます。
ストレスとは
ストレスとは、外部からの刺激に対して身体の内部に生じる反応のことです。厳密に言えば外部からの刺激のことを「ストレッサ―」と呼び、身体の反応のことを「ストレス反応」と呼びますが、今日一般的にはこの両方を合せて「ストレス」と呼ぶことが多いです(ですのでこの記事でも、ストレッサ―とストレス反応を合せてストレスと呼びます)。
ストレスの原因は多岐に渡ります。例えば気温の変化も一種のストレスですし、睡眠不足や飢餓、感染症もストレスです。現代社会において特に比重が大きくなっているのは社会・心理的なストレスであり、家庭や職場での不安、緊張、恐怖、怒りなどが要因です。
ストレスがかかると、体は「戦うか逃げるか反応」(fight or flight response)を示し、アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。これにより、心拍数の増加、血圧の上昇、呼吸の速まり、筋肉の緊張、消化機能の低下など様々な反応が引き起こされます。
ストレスが髪の毛に与える影響
ホルモンバランスの乱れ
ストレスが慢性的になると、体内のホルモンバランスが乱れます。特に、ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾールの分泌が増加します。コルチゾールは、短期的には身体を危険から守るために重要な役割を果たしますが、長期的に高いレベルが続くと、毛包(毛根)に悪影響を及ぼす可能性があります。最近の研究では、コルチゾールが毛包幹細胞に作用して発毛を阻害することが分かってきました。
このように、ストレスが原因でコルチゾールが高いレベルを維持すると、毛包の機能が低下して薄毛が進行する可能性があります。
血行不良
ストレスは交感神経系を活性化させ、血管を収縮させます。これにより、頭皮への血流が減少し、毛包に必要な栄養素や酸素が十分に供給されなくなるリスクが高まります。血流が低下すると毛包が栄養不足となり、髪の成長サイクルが乱れて成長が遅くなり、抜け毛が増加するなどして薄毛が目立つ様になってしまう可能性があります。
自己免疫反応の誘発
ストレスは免疫系にも影響を及ぼし、自己免疫反応を引き起こすことがあります。自己免疫反応とは、体の免疫系が誤って自分自身の組織を攻撃してしまう現象です。ストレスによって引き起こされる自己免疫反応の一つに、円形脱毛症があります。円形脱毛症は、免疫系が毛包を誤って攻撃することにより、突然の部分的な脱毛を引き起こします。
その他
ストレスは体内のストレスホルモンを増加させるだけでなく、睡眠障害や食欲不振などを引き起こすこともあり、全体的な健康状態を悪化させる可能性があります。睡眠が不足すれば夜間に分泌される成長ホルモンが低下してしまい、これは髪の発育にマイナスの影響を与えます。食欲不振による栄養不足は髪の材料となるたんぱく質などが不足してしまい、これもやはり髪の発育にはマイナスです。これらの要因が間接的に毛髪の健康に影響を与える場合があります。
ストレスが関係する薄毛とは
上述の通り、ストレスは髪にとって悪い影響を与えます。それでは、実際にストレスが原因で引き起こされる薄毛にはどの様なものがあるのでしょうか。代表的な例をみていきましょう。個々の治療や対策については、専門の医療機関に相談するようにしましょう。
休止期脱毛症
ストレスが原因で一時的に大量の髪が休止期に入ることで引き起こされる脱毛症です。通常、髪の成長サイクルには成長期、退行期、休止期の3つの段階がありますが、ストレスにより多くの髪が成長期から突然休止期に移行してしまいます。これにより、数ヶ月後に大量の髪が抜け落ちることがあります。主な症状は急激な脱毛で、シャンプーやブラッシング時に大量の髪の毛が抜けることが特徴です。特定の部分だけに限って脱毛するというより、頭皮全体に薄毛が見られることが多いです。通常は原因となるストレスが解消されれば、毛髪は通常の毛周期に戻り、再び成長を開始します。回復には数か月から1年以上かかることがありますが、ほとんどの場合は元の状態に戻ります。
円形脱毛症
自己免疫反応によって引き起こされる脱毛症です。円形脱毛症の発症には遺伝的要因、免疫系の異常、環境要因などが複雑に絡み合っており、ストレスはこの反応を誘発する要因として大きく関わっています。突然の部分的な脱毛が特徴で、免疫システムが誤って自分の毛根を攻撃することで脱毛が生じ、脱毛部位は円形または楕円形で、頭皮やその他の体毛のある部位に突然現れます。円形脱毛症は部分的な脱毛(斑状脱毛)から全身の体毛が失われる(汎発性脱毛症)まで、様々な程度の脱毛が見られ、複数できたりもします。
円形脱毛症の予後は個人差が大きく、ストレス管理、薬物療法、紫外線療法などによる適切な治療と長期的な管理により、通常は毛髪が再成長して元に戻ることがありますが、一部の患者は再発を繰り返すことがあります。円形脱毛症が起きた際は、専門の医療機関へご相談下さい。
AGA(男性型脱毛症)
AGA(男性型脱毛症)は、遺伝的要因やホルモンバランスの乱れが関与する脱毛症です。この脱毛症は男性に多く見られますが、女性にも発症する場合があります(FAGA/女性男性型脱毛症)。ストレスが原因でホルモンバランスの乱れを促進してしまうことで、AGAによる薄毛が悪化してしまう可能性があります。その他にも、自律神経系に影響を与えて、血管の収縮を促し、頭皮の血行不良を引き起こしたり、生活習慣の乱れ(喫煙や偏った食事、睡眠不足など)に繋がったりと、ストレスによってAGAを加速させてしまう可能性があります。
「AGA(男性型脱毛症)とは」でもご紹介させて頂いておりますが、AGAは医薬品や植毛(自毛植毛)などの治療法があります。
抜毛症(トリコチロマニア)
抜毛症(トリコチロマニア)は、強迫的に自分の髪の毛を引き抜いてしまう精神的な疾患です。学齢期の特に女児に多くみられ、生活環境のストレス(学校や家庭内の人間関係、部活、受験など)が関連して発症することが多いです。
通常、抜毛する対象としては頭髪が最も多いですが、まつ毛、眉毛、その他の体毛も対象となることがあります。この行動は一時的な快感やストレスの解消をもたらすことがありますが、結果的には抜毛部位に見た目の問題や皮膚の損傷を引き起こし、さらなる心理的ストレスを引き起こすことがあります。抜毛症は、遺伝的要因や神経生物学的要因、心理的要因が複雑に絡み合った精神的な疾患ですが、特にストレスは、抜毛行動の発症や悪化に深く関与しており、心理的ストレス、ストレスホルモンの影響、自律神経系の乱れなどが抜毛症の進行を促す要因となります。治療には、行動療法、薬物療法、ストレス管理が含まれ、患者の生活の質を向上させるために包括的なアプローチが必要となります。
ストレスへの対処法
ストレスの対処法は多岐にわたり、個々の状況や性格に応じて最適な方法が異なります。参考までに、いくつか代表的なストレス対処法を紹介します。下記に挙げる対処法以外にも様々な方法がありますので、ご自身に合ったストレス管理の方法を見付けて、ストレスと上手に付き合う生活を送れるよう心掛けておきましょう。
リラクゼーション
リラクゼーションは心拍数を下げ、血圧を低下させ、筋肉の緊張を和らげ、呼吸を深くゆっくりするなどして、交感神経を鎮め副交感神経優位にさせるための方法で、リラックスをすることによってストレスを軽減させる効果があります。これらのリラクゼーション方法を日常的に取り入れることで、ストレスの影響を最小限に抑える事が期待できます。
例)深呼吸、瞑想、マッサージ、入浴、アロマテラピー、自然散策、音楽鑑賞 など
運動
身体を動かす事によって、コルチゾールなどのストレスホルモンのレベルを低下させたり、「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌を促し、気分を高揚させる事が期待できます。また、日常のストレスから一時的に気をそらしてリフレッシュしたり、運動を通して達成感を得ることで、自己効力感や自己肯定感が高まって、自信がつく等の効果も期待できます。ただしあまり追い込んでしまうと運動自体がストレスになる可能性もありますので、適度な運動に留めておいた方が良いでしょう。
例)有酸素運動(ランニング、ウォーキング等)、ヨガ、筋力トレーニング、ストレッチ など
睡眠
睡眠は、ストレス解消において非常に重要な役割を果たします。睡眠中に細胞の修復や成長ホルモンの分泌を行い、日中の活動で受けたダメージを回復したり、ストレスホルモンのレベルを調整したり、イライラや不安感の増幅を抑えたりと、質の高い睡眠は、心身の回復、精神のリフレッシュ、感情の安定化が期待できます。特に22:00~02:00は髪の成長に重要な成長ホルモンの分泌が多いとされる時間帯なので、そのころには就寝しているよう心掛けておくと良いでしょう。質の高い睡眠を助ける要素を下記に幾つか挙げさせて頂きます。
例)十分な睡眠時間、睡眠環境の整備、就寝前のリラックス、規則正しい睡眠時間 など
趣味
趣味は、自身が楽しいと感じる時間を過ごす事で、ストレスを軽減して心の健康を保つ効果が期待できます。日常のストレスや問題から一時的に離れ、心をリフレッシュすることができます。また、趣味を通じて新しいスキルを習得したり、達成感や満足感を得られたり、他人と交流することで、孤独感を軽減して連帯感を感じたりなど、様々な効果があります。個人によって感じ方や状況は違うため、自身に合った趣味を見つける事が重要です。
例)音楽・映画鑑賞、スポーツ観戦、旅行、読書、料理、アート、クラフト など
その他
バランスの取れた食事、快適な空間作り、気心の知れた友人や家族との時間、心理療法、薬物療法、無理のないタイムマネジメントなど、様々な対策法があります。
まとめ
ストレスは薄毛のみならず、健康にとっても影響を及ぼします。日々の適切なストレス管理と生活習慣の改善により、脱毛症の進行を防ぎ、改善することが期待できます。ストレスと脱毛症の関係を理解し、自分に合った対処法を見つけることが、髪と健康の維持に繋がります。
紀尾井町クリニックは、AGA治療・自毛植毛専門院として、国内でも数少ないAGA治療薬からFUT植毛とFUE植毛を取り扱う、1998年からの実績を持つ薄毛治療専門のクリニックです。AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方は、まずはお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
医師 中島 陽太(国際毛髪外科学会 正会員)