毛周期(ヘアサイクル)とは【医師監修】
- 1. 毛周期(ヘアサイクル)とは
- 2. 毛周期のメカニズム
- 2.1. 成長期(アナゲン期)
- 2.1.1. 期間
- 2.1.2. メカニズム
- 2.1.3. 毛髪の成長速度
- 2.2. 退行期(カタゲン期)
- 2.2.1. 期間
- 2.2.2. メカニズム
- 2.2.3. 毛髪の変化
- 2.3. 休止期(テロゲン期)
- 2.3.1. 期間
- 2.3.2. メカニズム
- 2.3.3. 毛髪の脱落
- 3. 毛周期に影響を与える要因
- 3.1. 遺伝
- 3.2. ホルモンバランス
- 3.2.1. アンドロゲン
- 3.2.2. エストロゲン
- 3.2.3. 甲状腺ホルモン
- 3.3. ストレス
- 3.4. 健康状態
- 3.5. 外的要因
- 4. 毛周期の異常
- 4.1. 男性型脱毛症(AGA)
- 4.2. 休止期脱毛(テロゲン脱毛症)
- 4.3. 斑状脱毛症(円形脱毛症)
- 4.4. その他
- 5. 毛周期の維持
- 5.1. 栄養補給
- 5.2. ストレス管理
- 5.3. ヘアケア
- 6. 乱れた毛周期の治療法
- 6.1. 医師の診断
- 6.2. 医薬品
- 6.3. 植毛(自毛植毛)
- 6.4. かつら
- 6.5. その他
- 7. 毛周期の終わり
- 8. まとめ
毛周期(ヘアサイクル)とは
毛周期(もうしゅうき)は、ヘアサイクルとも呼ばれ、毛髪や体毛が成長、退行、休止の各段階を経て生え変わる過程を指します。このサイクルは個々の毛穴ごとに異なるタイミングで進行しており、人体の皮膚表面に常に一定の毛量を維持する役割を果たしています。
体質等により個人差はありますが、健康な頭皮の人でも、1日におよそ50本から100本程度の髪の毛が自然に抜け落ちるのは正常なことです。これは、全体のヘアサイクルの一部(休止期)であり、髪が生え変わるための自然なプロセスです。髪が抜けるタイミングは洗髪時や整髪時のような髪の毛に触れているシーンに限るというわけではなく、普段の生活の中で自然に抜け落ちています。(お部屋などを掃除していると特に髪に触れる機会が少ない所でも抜けた毛が落ちていると思います)
本コラムでは、毛周期の各段階の詳細、影響を与える要因、そして健康管理や乱れた毛周期の治療法などについて詳しく解説します。
毛周期のメカニズム
毛周期は大きく3つの段階に分けられます。其々の段階の持続期間などは遺伝が大きく影響していると言われており、健康状態や栄養状態も影響しています。
成長期(アナゲン期)
成長期は、毛母細胞が活発に分裂し、毛髪が生成される期間で毛周期の中で最も長い期間です。この段階では、毛包(毛根を包む組織)が深く皮膚に埋まっており、毛髪の成長を支えています。成長期の長さは部位によって異なり、頭髪の場合は3〜7年と非常に長いのに対し、眉毛やまつ毛、体毛では数ヶ月程度です。頭髪の約85〜90%がこの成長期にあります。成長期が長いほど、毛は長く成長し続けます。
期間
成長期は一般的に3〜7年続きますが、これは個人差があり、遺伝や年齢、健康状態によって異なります。頭皮の毛髪の場合、成長期が最も長く、身体の他の部位(腕、脚、眉毛など)では短くなります。
メカニズム
- 毛母細胞の活発な分裂: 毛根の毛母細胞が活発に分裂して毛髪が伸びます。この細胞分裂が成長期の中心的な活動になります。
- 毛乳頭の役割: 毛乳頭は毛母細胞に栄養を供給し、成長を促進します。毛乳頭には血管が豊富に含まれており、必要な栄養素と酸素を毛母細胞に運びます。
- メラニンの生成: 成長期にメラノサイト(色素細胞)がメラニンを生成し、毛髪に色を付けます。
毛髪の成長速度
一般的に、頭髪は1日に約0.3〜0.4ミリメートル(約1センチメートル/月)の速度で成長します。この速度も個人差があります。
退行期(カタゲン期)
退行期は、毛髪の成長が停止し、毛包が収縮して毛髪が抜ける準備をする期間です。この段階では、毛根が縮小し、毛母細胞の分裂も停止します。退行期は比較的短く、約2〜3週間続きます。毛髪の約1〜2%がこの退行期にあります。退行期が終わると、毛髪は次の休止期に入ります。
期間
退行期は一般的に約2〜3週間続きますが、これは個人差があり、遺伝や年齢、健康状態によって異なります。
メカニズム
- 毛母細胞の分裂停止: 毛母細胞の分裂が停止し、毛髪の成長が止まります。
- 毛乳頭と毛包の分離: 毛乳頭が毛包から分離され、栄養供給が停止します。
- 毛包の縮小: 毛包が縮小し、毛髪が徐々に表皮側に押し出されるような形で上昇します。
毛髪の変化
- クラブヘアの形成: 毛根の形状が変化し、クラブヘアと呼ばれる硬いケラチンの塊が形成されます。
- 色素の変化: メラノサイトの活動が減少し、色素生成が停止します。
休止期(テロゲン期)
休止期は、毛根が休止状態に入り、新しい毛髪の成長が始まるまでの期間です。この段階では、毛根が完全に休止状態にあり、毛髪が自然に抜け落ちるのを待ちます。休止期は約3〜4ヶ月続きます。毛髪の約10〜15%がこの休止期にあります。休止期が終わると、再び成長期に移行し、新たな毛髪が成長し始めます。1日に約50〜100本の毛髪が自然に抜けるのは、この休止期の影響です。
期間
休止期は一般的に約2〜4か月程度続きますが、これは個人差があり、遺伝や年齢、健康状態によって異なります。
メカニズム
- 毛髪の休止: 毛髪は毛包内に留まり、成長は完全に停止します。
- 新しい毛髪の成長準備: 休止期の終わりに、新しい毛髪が成長を始める準備が整います。
毛髪の脱落
休止期の終わりには、古い毛髪が自然に抜け落ち、新しい毛髪が成長期に入ります。
毛周期に影響を与える要因
毛周期は様々な内的および外的要因により影響を受けます。以下に主な要因を挙げます。
遺伝
遺伝的要素は、毛周期の長さや毛の密度に影響を与えます。家族に脱毛症の歴史がある場合、その遺伝的影響を受けやすいとされています。遺伝的要因は、個々の毛包の感受性やホルモンバランスなどの影響度を決定すると言われています。
ホルモンバランス
ホルモンは毛周期に直接影響を与えます。特に、以下のホルモンが重要です。
アンドロゲン
男性ホルモンであるアンドロゲンは、男性型脱毛症(AGA)を引き起こすことがあります。なお、女性でもアンドロゲンの影響を受ける可能性があります。
エストロゲン
女性ホルモンであるエストロゲンは、髪の成長を促進し、毛周期を延長する作用があります。妊娠中はエストロゲンの増加により髪の成長が促進されることがあります。
甲状腺ホルモン
甲状腺の機能低下(甲状腺機能低下症)や過剰(甲状腺機能亢進症)は、毛周期に異常を引き起こし、脱毛を引き起こすことがあります。
ストレス
慢性的なストレスは、毛周期に悪影響を与えます。ストレスが増加すると、休止期脱毛(テロゲン脱毛)と呼ばれる一時的な脱毛が発生することがあります。
健康状態
栄養状態、ストレス、病気なども毛周期に影響を与える要因です。例えば、栄養不足や特定のビタミン・ミネラルの欠乏は、毛髪の成長を阻害し、抜け毛を引き起こす可能性があります。また、慢性的なストレスや重大な病気も毛周期を乱す原因となります。
外的要因
薬物療法や放射線治療、季節の変化や紫外線などの環境的な要因、かつらによる頭皮ダメージ(長時間の着用や着脱方法)など、その他にも様々な要因が毛周期に影響を与える可能性があります。
毛周期の異常
毛周期の異常は、脱毛症やその他の毛髪トラブルの原因となります。以下に主な毛周期の異常を挙げます。
男性型脱毛症(AGA)
男性型脱毛症(AGA)は、遺伝とホルモンの影響による毛周期の異常です。アンドロゲンの影響で、男性ホルモンであるテストステロンが、5α還元酵素(5αリダクターゼ)という酵素の働きでジヒドロテストステロン(以下DHT)という物質に変換されます。このDHTがアンドロゲン受容体に作用して、毛周期を早めてしまい、太く成長しきる前に抜けてまた産毛に生え変わるサイクルへと変えてしまいます。つまり、毛周期の成長期が短くなり、休止期が延長します。その結果、毛髪が細く短くなり、薄毛状態になっていきます。
休止期脱毛(テロゲン脱毛症)
休止期脱毛は、急激なストレスや重大な病気、栄養不足などにより、成長期の毛髪が一斉に休止期に移行する現象です。これにより、大量の毛髪が短期間で抜け落ちます。通常、原因が取り除かれると、毛髪は再び成長期に戻りますが、回復には数ヶ月かかることがあります。
斑状脱毛症(円形脱毛症)
斑状脱毛症は、自己免疫反応による毛周期の異常です。免疫システムが誤って毛母細胞を攻撃することで、毛髪が急速に抜け落ち、円形の脱毛斑が形成されます。この状態は、ストレスや遺伝的要因が関与すると考えられています。
その他
脂漏性皮膚炎や頭皮の乾燥、フケなどの頭皮トラブルや、熱や化学薬品を使用した処理も髪にダメージを与える原因となりえます。また、帽子やヘルメット、かつらの長時間着用、過度の牽引を伴うタイトなヘアスタイルも頭皮や毛根への負担を増加させ、抜け毛に繋がる可能性があります。
毛周期の維持
毛周期を健全に維持することは、健康な毛髪を維持するためには非常に重要です。適切な栄養補給、ストレス管理、ヘアケアは、健康な毛周期の維持をサポートします。
栄養補給
バランスの取れた食事は、健康な毛周期を維持するために不可欠です。特に、タンパク質、鉄、亜鉛、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンD、ビタミンEなどは毛髪の健康に重要な役割を果たします。これらの栄養素が不足すると、毛髪の成長が阻害されてしまい、抜け毛が増えてしまう可能性があります。
ストレス管理
慢性的なストレスは、毛周期を乱す原因となります。ストレスはホルモンバランスを崩し、成長期を短縮し、休止期を延長させる可能性があります。適度な運動やリラクゼーション法、十分な睡眠は、ストレスを軽減し、健康な毛周期をサポートします。ストレスは髪だけでなく健康全般に影響を及ぼすので、ストレスには十分注意して生活をするよう心掛けましょう。
ヘアケア
適切なヘアケアは毛周期を維持することへの貢献が期待できます。過度な熱や化学処理は、毛髪を損傷し、成長を阻害する可能性があります。自然乾燥や低温でのドライヤー使用、優しいシャンプーとコンディショナーの使用、必要以上に髪を引っ張たり爪を立ててこすったりしない、などが挙げられます。また、頭皮マッサージや育毛剤の使用は、頭皮の血行を促進し、毛母細胞への栄養供給を助けます。
乱れた毛周期の治療法
抜け毛が増えてきたと感じた際は、下記のような対策・治療法があります。これらを効果的に進める為にも、ご自身の状態を医学的に診断して、状態やご希望に合わせた対策・治療を行なっていく事をおすすめいたします。
医師の診断
実際に抜け毛が気になりだして来たら、まず専門の医師の診察を受ける事をお勧めします。AGA以外の原因でも薄毛が起こることがあるので、自身の状態を診断してもらいましょう。治療が必要な状態だと診断された際は、次にも挙げますが、医師の処方が必要なAGA治療薬や植毛などの医学的な治療も含めた選択肢からご自身の症状や希望等に合わせた治療法を選ぶようにしましょう。
医薬品
内服薬や外用薬など抜け毛の治療には様々な薬があり、処方には医師の診察が必要なものもあります。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」においては、内服薬ではフィナステリド、デュタステリド、外用薬ではミノキシジルが、A(行うよう強く勧める)として推奨されています。(※ただし、女性は内服薬:フィナステリド、デュタステリドの適応は無しで、外用薬:ミノキシジルのみとなります)
植毛(自毛植毛)
自身のAGAの影響を受けにくい髪の毛を薄毛が気になる部分に移植する医療技術です。定期的なメンテナンスの必要もなく、移植した髪の毛は他の髪同様に伸びてきます。パーマやカラーリング、散髪や洗髪なども特に気にすることもなく行なう事が出来ます。「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」においては、自毛植毛は男性型脱毛症はB(行なうよう勧める)、女性型脱毛症にはC1(行なっても良い)となっており、フィナステリド及びデュタステリド内服やミノキシジル外用などの薬にの効果が十分でない症例に対して、他に手段がない状況において、十分な経験と技術を有する医師が施術する場合に限り、男性型脱毛症には自毛植毛術を行うよう勧め、女性型脱毛症には行ってもよいこととする。」とされています。
※詳しくは紀尾井町クリニック公式サイトの「自毛植毛とは」や「植毛とは?医師が詳しく解説」でもご紹介しておりますので興味がある方はご参照ください。
かつら
かぶるだけですぐに希望の髪型と髪の量が得られ、広い範囲の薄毛をカバーできます。日本皮膚科学会のガイドラインでは、「かつら着用は脱毛症状を改善するものではないが、通常の治療により改善しない場合や、QOLが低下している場合に、行ってもよいことにする」とされています。ただし、長期に渡りかぶり続けているなど、場合によっては頭皮に負担をかけて毛周期に悪影響を及ぼす可能性もあるので注意が必要です。
その他
低出力レーザー治療、成長因子導入および細胞移植療法など、上記以外にも様々な治療法があります。専門の医師に相談をして、それぞれの治療法のメリット・デメリット、リスクや副作用等を詳細に説明してもらった上で、ご自身の症状やご予算、ご希望等を踏まえた上で治療法の選択をしていきましょう。
毛周期の終わり
AGAなどの要因で毛周期を何周も繰り返すと、徐々に髪の太さがなくなり産毛のままで抜け落ちてくるようになり、最終的には産毛すら生えなくなります。このことから、毛周期には終わりがあるということが言えます。毛周期の回数には諸説あり、何周分の毛周期があるかは個人差があるようですが、30~50周とする意見があります。仮に30周とした場合、AGAが進行して半年で1周回るような場合であれば、15年で毛周期が終ってしまう計算となります。この毛周期が全て終了してしまった段階でフィナステリドなどのAGA薬を使用しても、効果がありません(この薬の効果は、「毛周期の成長期を延ばす」というものですので、毛周期がなければ効果が出ません)。低出力レーザーや頭皮内への成長因子の注射なども同じです。
このことから、AGA治療はAGAが進行しすぎる前に開始した方が良いと言われています。ただし、早く始めすぎても、本来必要ない状態なのに薬だけ飲んでいる、ということになりますので、「早く始めれば早く始めるほど良い」というものでは決してありません。薬を始めるべきかどうか悩んだ場合には医師の診察を受けて相談することをお勧めします。
なお毛周期が終了してしまった頭皮であっても、自毛植毛であれば治療が可能です。
まとめ
毛周期(ヘアサイクル)は、人体の皮膚表面に常に一定の毛量を維持する為に、「成長期」「退行期」「休止期」を繰り返しています。体質等により個人差はありますが、健康な頭皮の人でも、1日におよそ50本から100本程度の髪の毛が自然に抜け落ちるのは正常なことです。毛周期が乱れて正常な範囲を超えて脱毛が続くと、やがて薄毛の状態になってきます。正常な毛周期を維持していくためにも、毛周期に影響を与える要因を理解し、適切な対策・予防を心掛けていきましょう。
紀尾井町クリニックでは、AGA治療・植毛専門院として、1998年より皆様の薄毛のお悩み解決をサポートをしてまいりました。実績のあるノウハウと技術を基に、お悩みに寄り添って個人に合った治療プランを一緒に考えております。無料で医師がカウンセリングを行っておりますので、まずはお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太